結納 -2 ページ35
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「いやはや、Aさんがあまりにも可憐で、口上も吹き飛んでしまいましたわ!」
給仕がならべた食事に手を付ける前から、漆原の当主はすこぶる上機嫌に笑った。
「敬一郎さんこそ、まさかこんなご立派な方がAのと思うと、感慨深うてなりません」
ようやく緊張も鎮まったらしい父もにこやかに応じた。
私はというと、桜湯にうかべられた桜の砂糖漬けを所在なく見ている。
去年の春に漬けたものだ、これを冨岡様にお出ししたこともある…。
食事会の段になって、襖は全開となり、丹念こめて準備した庭で橙色の紙行灯がゆれている。
今日は月が大きい。
「…さん。Aさん」
『…は、失礼いたしました、わたくし、まだ緊張が』
敬一郎さんが呼んでいたらしい。
私は慌てて顔を上げた。
「ご体調でも?」
『いいえ…ただ、やはり昨夜はあまり眠れませんでしたわ』
緊張だけではない。
私はときおり痛む腹のあたりにぎゅっと力を入れる。
…運が悪い。
「先日お伺いした際には、その色の着物はありませんでしたね」
『ええ、…よく覚えておいでで。
わたくしも早緑や橙と迷ったのですけれど、もう少し落ち着いた色のほうが、年相応かと思いなおしましたの』
「左様ですか。…ぜひ、色打掛は私にも選ばせてくださいね」
『…ええ、ぜひ』
敬一郎さんはさっきから少しも笑っていない。
厭だな、と思っていると、…ひときわ下腹に不快感を覚えた。
ああ、お手洗いに立ちたい。
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瑞姫(プロフ) - 今吐露2でリアルに泣いております、、思わずよくわからない報告コメント申し訳ないですめちゃくちゃ好きですこの作品 (2020年6月24日 23時) (レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
pink0223xxx(プロフ) - はじめまして、更新お疲れ様です。素敵な言葉遣いや雰囲気が想像がしやすくてどんどん引き込まれていきました。泣いたり笑ったり楽しかったです。応援してます! (2020年6月3日 21時) (レス) id: 086d84223c (このIDを非表示/違反報告)
おんたま(プロフ) - はじめまして。更新お疲れさまです。完成度が高くすごく素敵な作品だと思います。無理のない範囲で更新頑張ってください。応援しています。 (2020年6月3日 2時) (レス) id: 8f0607afea (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - お返事できてないお三方、コメント返信できてなくてすみません、いつも更新遅くてすみません、読んでくれてありがとうございますloveです (2020年6月2日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
madoka(プロフ) - 更新お疲れ様です!ずっと待ってました〜っ!!これからも頑張ってください。 (2020年5月24日 21時) (レス) id: f3e815359c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月19日 22時