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7話 ページ7

***

本能的に、これ以上怯えているところを見せるほうが悪手だと思ったから、努めて冷静に、挑戦するように言ってはみたものの、体中の震えが止まらない。
こんなに鮮烈に生死を意識したことが、これまでの人生にあっただろうか。
そうだ、死んだほうが楽だと思いながら毎日仕方なく生きていたけれど、この男が前に立つととたんに、死にたくない・生きていたいという、今まで感じたこともない衝動が沸き上がってくる。
知らないもう一人の自分が縋りついてくるみたいに。

私は、黙々と食事をする目の前の男をじっと観察する。
むしろ人好きのするような柔和な顔立ち、大柄で丈夫そうな体つき、軽妙な語り。
なんでこんな人が人殺しなんか、と思うとともに、こういう人こそ壊れているものなのかもしれない、とも思う。

「なんだい、人のことじろじろ見て。」

いやらしいなあ。童磨はおちょくるように言った。
私は無視する。先ほどしこたま打ち付けた尾骶骨や、昨夜散々床で引きずり回された背中や腰、半ば無理やり開かれた自分でも知らない場所、それから爪を立てられた顔、全身が警告を発するように痛む。
ちら、と視線を流せば、絵を描くのに使っている部屋に、最初の夜に童磨が着ていた服が干してある。
最初の夜に童磨がもっていた凶器は、ない。

「Aちゃん、料理うまいんだねえ!どれもこれもおいしいよ。」

おいしい?これが?
私には、塩気のある粘土みたいだ。

「せっかくなら恋人にでも食べさせてあげればいいのに。」

そして童磨は、おしょうゆある?と言った。
私が答える前に立ち上がると、流し横の調味料入れから醤油を持ち出して、先ほどおいしいよと言った私の料理に、なみなみと注ぐ。浸るほどに。黒々とした液体が、その中に浮かぶ平凡な煮物たちが、今は見知らぬものに見えてくる。童磨はそれを変わらずにこにこと口へ運ぶ。口を開くたび、その口内の赤さとか、歯の白さとかが、現実離れした鮮やかさで視界にちらつく。

『っ…。』

私は思わず立ち上がって、流しに嘔吐した。

「あらら、大丈夫?」

童磨は私の背中に手を置いて、やさしくトントンと撫でる。左手で私の背中を撫でながら、右手で私の口元に触れる。かわいそうに。心底憐れむような声でそう言うと、吐瀉物をゆすいでもいない私の口に唇を寄せる。―――気持ち悪い、強く胸を押して童磨を突き飛ばすと、私はもう一度嘔吐した。


***


その日の夜中、童磨が音もなく出ていくのに気づいた。

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ゆん - 性癖ドストライクで死にました← (2021年8月21日 13時) (レス) id: f3622d769a (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - つるかめさん» 恐縮です!ありがとうございます!こんな趣味全開の書き物楽しんでもらえたなら嬉しいです。お星様連打してくれる人一番好き (2020年4月26日 18時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
つるかめ(プロフ) - こんなに一番右のお星さま連打したのは初めてです…。言葉選びといい世界観といいめちゃくちゃ好きでした!完結おめでとうございます!素敵な小説をありがとうございました!! (2020年4月26日 18時) (レス) id: 21a20e72bc (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - まほろさん» これが性癖のど真ん中…!この変態さんめ!コメントありがとうございます、頑張って書きます!! (2020年4月25日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
まほろ(プロフ) - 性癖のど真ん中を貫かれました。感情を持てあましすぎて読みながら踊り狂ってます (2020年4月25日 3時) (レス) id: 83522f25c5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月15日 1時

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