[完]壊す童磨と死んでいる女

27話　後日譚 ページ27

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あれから、4年経った。

実家に戻って1か月後、童磨の意識が戻ったことを、いつも来る警察官によって知らされた。
これから取り調べがあって、起訴されて公判に進むだろうと。
そして、きっと死刑になるだろうと。

私は他人事のようにぼんやりとそれを聞いていた。

童磨の子供を妊娠していたことがわかったあたりから、急に周囲は同情的になった。
童磨が目を覚ましたと聞く前日にちょうど、私は手術を受けていた。
別段、それについて思うことはなかったが、まわりはずいぶんと気の毒に思っているらしい。
ますます、私は自分の感情が平坦になっていることに気づいていた。
これじゃあ、死んでいるのと同じだ。
私は「死にたい私を変えられたくない」という望みを果たしたのだろうか。
同時に、死にたい人間を殺したい童磨の望み通り、殺されてしまったのだろうか。


同じような秋がまためぐってくる。
私は一通の郵便を受け取る。
差出人など見なくてもわかる。
拘置所から手紙を送ってくる知り合いなんて他にいない。
…やっぱり、実家の住所おさえられてたか。
私はゆっくりとそれの封を切った。

開きかけて、はた、と動きを止める。

じわじわと、ドアごしに―――死にたくない―――と願ったときの気持ちが沸き上がってくるのを感じた。
童磨の前でだけ現れたもう一人の私じゃなくて、本当の私の願いとして。

私は、その手紙を読まずに、破いて捨てた。
丁寧に丁寧に、細かく破るうち、どきどきと心臓が鼓動を再開したのを感じた。


『殺しそこなったね』

と、私は童磨に向かって言った。

『危うく、殺されたままでいるところだった』

と、重ねて言った。

死んだままでいてやるものかと、じわじわと体が熱くなる。
嘴平君の声に、死にたくないと答えた日のことを急に鮮明に思い出した。

そうだ、私は死にたくなかった。

生きていたかったから、あのときちゃんと助けてと言えたんだ。
童磨は、私を殺し損ねたのだ。
はればれとした気持ちだった。
私は、しまい込んでいたあの町での荷物をほどき、中から小さなキャンバスを取り出す。
指で触れば、黒鉛はいともたやすく、もろく掠れた。
脳裡に、童磨の肩越しの寂しい天井が浮かんだが、私はもうそこを出て今ここで生きている。
何も怖くないと思った。
死んでいないあかしの、…死んでいなかったあかしの下絵にフィキサチーフをかける。
そして、4年ぶりに筆を握る。
あの匂いが、部屋にこもっていく。







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