23話 ページ23
***
バン、と童磨は、乱暴に玄関のドアを閉めた。
そしてそのまま、床に私を突き飛ばす。
抱えていた鞄が落下して、中身が散乱する。
「結局Aちゃんも死にたいままだったんだねえ」
童磨は、コロコロと足元に転がる小さな瓶を拾い上げてつぶやく。
「それとも、俺と一緒に死にたくなっちゃった?」
「いつからこれ、仕込んでたんだい?」
靴のまま、私は腹を踏まれて動けない。
そして、脚をどけたかと思うと、童磨はいつものように私にまたがった。
違うのは、いつも空っぽの笑顔を浮かべているその顔が、にこりともしていないことだけ。
童磨は私の首を掴むと、もう一度「ねえ、俺と一緒に死にたい?」と聞いた。
『…死にたい』
腹の底で、ひときわ大きく怪物が唸った。
童磨の背中がビクッと動いたかと思うと、そのまま私の腹の上にボタボタと血を吐いた。
…律儀に、昨日の残りを食べてくれたんだろうな。
『あなたとここで死にたくて、ずっと食事に混ぜてた』
「…いいね」
同じ釜の飯ってやつだね。童磨は愉快そうに言う。
口の端からは血が滲み、眼窩は青黒くくぼんでいる。
首を掴んでいる手が、初めてじわっと温かくなった。
童磨は、手に持っていた瓶の中身をすべて口に入れると、そのまま私に口づけた。
童磨の血と、童磨の唾液と、ゆっくりあたたまっていく毒薬とが私と童磨の口を行ったり来たりする。
初めて、童磨の体が熱い。気持ちよくすらある。
本当は少しずつ飲ませて、弱ったところで刺し殺そうと思っていたんだけどな。
私は、圧し掛かってくる童磨の体温をおぼろげに感じながら、もう化け物のなすがまま、だらんと手足を弛緩させた。
こんだけいっぺんに飲んだら、死ぬでしょ。
私も、あなたも。
あなたに出会う前から、死んだようにしか生きてなかったんだから、今死んでも同じ。
目を閉じる直前、床に散らばった鞄の中身が目に入る。
包み紙でくるみなおしたおにぎりが一つ。
―――おにぎり、一口くらい食べておけばよかったな。
童磨の体が、ずるりと私の上から落ちた。
私はその頭を抱えて、―――まるで童磨がそうしていたのをやり返すみたいに―――ゆっくりと目を閉じる。
***
―――鬼怒川!!!
―――鬼怒川いるんだろ!!!
―――開けろ!!
―――鬼怒川A!!!
眩しい声だ。眩しくて熱い声だ。
そんなものを、
聞かせないで。
死にたくなくなってしまう。
***
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ゆん - 性癖ドストライクで死にました← (2021年8月21日 13時) (レス) id: f3622d769a (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - つるかめさん» 恐縮です!ありがとうございます!こんな趣味全開の書き物楽しんでもらえたなら嬉しいです。お星様連打してくれる人一番好き (2020年4月26日 18時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
つるかめ(プロフ) - こんなに一番右のお星さま連打したのは初めてです…。言葉選びといい世界観といいめちゃくちゃ好きでした!完結おめでとうございます!素敵な小説をありがとうございました!! (2020年4月26日 18時) (レス) id: 21a20e72bc (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - まほろさん» これが性癖のど真ん中…!この変態さんめ!コメントありがとうございます、頑張って書きます!! (2020年4月25日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
まほろ(プロフ) - 性癖のど真ん中を貫かれました。感情を持てあましすぎて読みながら踊り狂ってます (2020年4月25日 3時) (レス) id: 83522f25c5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月15日 1時