19話 ページ19
***
今日は月初、経理部が一番忙しい日である。
私は部長に、怪我をしてしまったから終日私服で業務をしたい旨許可をとって、午前中はばたばたと過ごした。
最近、鬼怒川は災難続きだなあ、と部長はのんきに言った。
日頃の行いが悪くて、と私は応じた。
昼休憩も残り20分ほどになって、私はようやくひと区切りつけて伸びをする。
ここ最近、食欲がないせいで、ほとんどお昼に食事をしていない。
「おい、鬼怒川A」
不意に、いつもの声で名前を呼ばれた。
「お前、昼食ってねえだろ」
そんなんだからフラフラすんだよ、と言って、嘴平君はポンとおにぎりを置いた。
そして、何か違和感があるような顔をして、そのきらきらした目で私をじっと見る。
「…お前、なんで今日私服なんだ?」
しばらくして、違和感の元凶に気づいた様子で言った。
『…怪我をしてるから』
「怪我ア!?」
『大声出さないでくださいよ…』
「なんだよ、転んだのか?食わねえからフラフラしたんだろ!」
くわっ、とまた怒った顔をして、強引におにぎりの包み紙を剥くと私の手のあたりにのせた。
『おなかすいてない…』
「食え!バカか!」
『やだ、気持ち悪くなる…』
「食わねえから気持ち悪くなるんだ!」
ぐいぐいと口に押し付けられるおにぎりをかわしていると、不意に嘴平君が動きをとめた。
「お前、その首の」
はっ、と私はとっさに首をおさえる。
「見せろ、それ」
『やめて、なんでもない、ただの…』
けれど、遠慮もデリカシーもない嘴平君は、私の襟首をぐいと掴んで、私が襟の下にかくしていた傷を見た。
「これ…、」
誰に、と言ったところで、課長や他の課員が戻ってきて、嘴平君はぱっと手を離した。
『なんでもない、おにぎりありがとう、ありがたくいただきます』
私はこれ幸いと立ち上がって、小走りで女子トイレに駆け込んだ。
バン、と個室のドアを閉めて、ドアにもたれかかる。
ひざががくがくと震えている。
私はそのまま、便器に向かって思い切り嘔吐した。
朝から何も飲み食いしていない胃から、辛い辛い、苦い苦い胃液がほとばしる様に出る。
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ゆん - 性癖ドストライクで死にました← (2021年8月21日 13時) (レス) id: f3622d769a (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - つるかめさん» 恐縮です!ありがとうございます!こんな趣味全開の書き物楽しんでもらえたなら嬉しいです。お星様連打してくれる人一番好き (2020年4月26日 18時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
つるかめ(プロフ) - こんなに一番右のお星さま連打したのは初めてです…。言葉選びといい世界観といいめちゃくちゃ好きでした!完結おめでとうございます!素敵な小説をありがとうございました!! (2020年4月26日 18時) (レス) id: 21a20e72bc (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - まほろさん» これが性癖のど真ん中…!この変態さんめ!コメントありがとうございます、頑張って書きます!! (2020年4月25日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
まほろ(プロフ) - 性癖のど真ん中を貫かれました。感情を持てあましすぎて読みながら踊り狂ってます (2020年4月25日 3時) (レス) id: 83522f25c5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月15日 1時