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14話 ページ14

***


「……オイ、お前、大丈夫か?」


あれから数日、「絶対に家から出ない」という約束の代償として、居ついた童磨に引きずり回される夜が続いている。
あまりにもひどい顔をしていたからか、ある日、とうとう初めて会う営業にさえ、体調不良を指摘されてしまった。

『……大丈夫です』

「いや、大丈夫な奴の顔じゃねーだろ」

経費申請を出しに来たその営業は、私のつっけんどんな態度に苛ついたのか、乱暴に経費申請の用紙をデスクの書類ケースに投げ入れると、手をついて顔を覗き込んだ。
綺麗な顔の人だ、と思った。
きらきらした目。
―――童磨みたいな。
私はとたんに吐き気に襲われる。
―――楽しそうに私を転がす童磨の目も、無邪気にきらきらと光るのだ。

「って、オイ!」

私はそのまま、吐き気をこらえながらずるずると椅子から落ちる。
その人は、慌てて私の体を支えると、「コイツ、医務室へ連れていくぞ!」と言って、それから私はふわっと宙に浮いた。
……気持ち悪い。
この人の体温が、……他人の体臭が気持ち悪い……。


***


『う……』

「起きたかよ」

目を覚ますと、医務室だった。
聞きなれない声にはっとして体を起こす。
壁掛け時計を見ると、せいぜい15分ていどしか眠っていなかったようだが、丸一日眠った後のような妙に頭の冴えた感じがした。

「いきなりぶっ倒れてんじゃねえよ、風邪なら休んでろ!」

さっき私を抱えてくれた営業の人だろう、なぜか綺麗な顔をゆがめて怒っている。
私はとっさに謝る。

『す、すみません、』

そしてその人はごそごそとベッドのわきから私の通勤用の鞄を引っ張り出して、おなかの脇にドンと置いた。

「もう、帰れ。経理の課長には言っといた」

『え、あなたが?』

「わりいか?マトモな奴の顔色じゃねえ!家帰って、寝ろ!鬼怒川A!」

『…どうして、名前』

「ああ?同期だろうが」

…こんな同期、いたっけ、という私の顔を察したのか彼は、「嘴平だ!嘴平伊之助!」と言った。

『…あ、中部営業所の』

「そうだ!9月にこっち戻ってきたばかりだ!一年目の集合研修ぶりだから、忘れてたことは許す!」

そう言ってまた、綺麗な顔をゆがめて怒ったような顔をする彼を見て、なんとなく私はそれを眩しいと思った。
こんなふつうの、きらきらした目の人、今の私が直視したら、目が腐り落ちてしまう。

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ゆん - 性癖ドストライクで死にました← (2021年8月21日 13時) (レス) id: f3622d769a (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - つるかめさん» 恐縮です!ありがとうございます!こんな趣味全開の書き物楽しんでもらえたなら嬉しいです。お星様連打してくれる人一番好き (2020年4月26日 18時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
つるかめ(プロフ) - こんなに一番右のお星さま連打したのは初めてです…。言葉選びといい世界観といいめちゃくちゃ好きでした!完結おめでとうございます!素敵な小説をありがとうございました!! (2020年4月26日 18時) (レス) id: 21a20e72bc (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - まほろさん» これが性癖のど真ん中…!この変態さんめ!コメントありがとうございます、頑張って書きます!! (2020年4月25日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
まほろ(プロフ) - 性癖のど真ん中を貫かれました。感情を持てあましすぎて読みながら踊り狂ってます (2020年4月25日 3時) (レス) id: 83522f25c5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月15日 1時

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