12話 ページ12
***
制作部屋の電気を点ける。しらじらしい蛍光灯が、ちらちらっと2回瞬いて、2秒後、部屋の中を恥ずかしいくらいの白さに曝す。
真ん中に、私が塗りつぶしたばかりの真っ白なキャンバス。
「あれ、あの絵、潰しちゃったの?」
悪くなかったのに。童磨はにこにこと言った。
『……座って。』
「はいはい。」
あ、脱いだほうがいいかい?そう言いながら笑う童磨を無視して、私はキャンバス越しにその顔をじっと見る。
鉛筆で、その輪郭をゆっくりと下書きしていく。
……また、遠くでサイレンの音が鳴っている。
キャンバスから童磨のほうへ視線を戻す。
童磨のガラス玉のような目が、そこだけぽっかりと世界に穴が開いたみたいに、私を見ている。
私はゆったりと持ち上がってくる吐き気を抑えながらまた鉛の先をじっと見る。
***
でも結局こうなる。
私は、早々に飽いた童磨に組み敷かれながらぼんやりと蛍光灯を見つめている。
「かわいいねAちゃん。一生懸命で。」
「そんなに俺をここに留めたいのかな?」
「かわいいねえ。」
床に押し付けられた腕の骨が痛い。
童磨は、私の鳩尾から鎖骨の間につうと指を滑らせると、のどの下のやわらかいところをぐっと押した。私は耐えきれず咽る。
童磨はそのくぼみに舌を這わせる。
童磨の肩のむこうに、まだ白い描きかけのキャンバスが見える。童磨が動くたび、体中が脈打つ一つの臓器になったように感じる。ねばつく泥の詰まった肉の袋に。童磨が死んだ肉の繭なら、私は死んだ肉そのものだ。
『―――痛い、』
「そりゃそんなに力んでたら痛いよ。」
力抜いてくれないと。
『―――いやッ…』
「ああもう、動くなよ。」
俺を外に出さないんじゃないの?Aちゃん。
そんなんじゃ俺すぐ飽きてしまうよ?
童磨は変わらず、子どものように無邪気な顔で、空洞の口をぽっかり開けて笑い、私を見下ろしている。視界のすべてをゆっくりと塞がれる。ぬるい、血なまぐさく脈打つ舌が入ってくる。この、化け物め……、私の目じりからはつうと涙が滑り落ちる。
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ゆん - 性癖ドストライクで死にました← (2021年8月21日 13時) (レス) id: f3622d769a (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - つるかめさん» 恐縮です!ありがとうございます!こんな趣味全開の書き物楽しんでもらえたなら嬉しいです。お星様連打してくれる人一番好き (2020年4月26日 18時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
つるかめ(プロフ) - こんなに一番右のお星さま連打したのは初めてです…。言葉選びといい世界観といいめちゃくちゃ好きでした!完結おめでとうございます!素敵な小説をありがとうございました!! (2020年4月26日 18時) (レス) id: 21a20e72bc (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - まほろさん» これが性癖のど真ん中…!この変態さんめ!コメントありがとうございます、頑張って書きます!! (2020年4月25日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
まほろ(プロフ) - 性癖のど真ん中を貫かれました。感情を持てあましすぎて読みながら踊り狂ってます (2020年4月25日 3時) (レス) id: 83522f25c5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月15日 1時