1話 ページ1
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友達はいない。恋人もいない。職場へは行くが誰とも口はきかない。
休日は外へもめったに出ないのに、なぜあの日、あんな時間に、外へ出てしまったのか、今でも不思議に思っているし、今でも後悔している。
雨の降る未明だった。
どうしてもオレンジジュースが飲みたくなったのだ。
普段だったらこんな夜中にジュースの一つくらい我慢するのに、その日はなぜかいてもたってもいられず、ふらふらと外へ出た。
コンビニを出て、高い塀と塀に挟まれた道を戻る途中、アパートの前に立つその人を見た。
街灯が円く照らすあたりに棒立ちになり、こちらに背を向けて立っていた。
袋が鳴った音に、彼は振り返った。
逆光の中、顔だけがくろぐろとした影に覆われて、見えない。
男は街灯のあかりの外へ出た。私のほうへ歩みを向けた。
手に持った袋を取り落とし、逃げよう、逃げないと、と思うのに、足は動かなかった。
へたりこむ私の目に、刃物が見えた。おおぶりのナイフが握られていた。
ねえ、ここの人でしょう。
男は存外かるい調子で私に声をかけた。
さっき、出てくるの見てたんだ、そこの部屋の人でしょう。
男が私の部屋のドアを指し示す、そのナイフが濡れているのに気付いた。
街灯を背にした男の、手や服や靴が、なまぐさく汚れているのにも気付いた。そして最後の一歩と踏み込むと同時に、男は私の前にかがみこみ、
「お姉さん、風呂貸してもらえないかい。」
その、顔を、忘れられない。
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ゆん - 性癖ドストライクで死にました← (2021年8月21日 13時) (レス) id: f3622d769a (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - つるかめさん» 恐縮です!ありがとうございます!こんな趣味全開の書き物楽しんでもらえたなら嬉しいです。お星様連打してくれる人一番好き (2020年4月26日 18時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
つるかめ(プロフ) - こんなに一番右のお星さま連打したのは初めてです…。言葉選びといい世界観といいめちゃくちゃ好きでした!完結おめでとうございます!素敵な小説をありがとうございました!! (2020年4月26日 18時) (レス) id: 21a20e72bc (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - まほろさん» これが性癖のど真ん中…!この変態さんめ!コメントありがとうございます、頑張って書きます!! (2020年4月25日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
まほろ(プロフ) - 性癖のど真ん中を貫かれました。感情を持てあましすぎて読みながら踊り狂ってます (2020年4月25日 3時) (レス) id: 83522f25c5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月15日 1時