7話 ページ7
宣言通り、杏寿郎さんは帰ってこなくなった。
帰らなくなって10日ほどたった頃、煉獄のご母堂から文を受け取った。
近所ではあるが、気を使わせてしまったようだ。
変わりないかと尋ねる文言から始まり、実家での杏寿郎さんの様子をつらつらと伝える文だった。
お気遣いなく、と返した。
暇なので、その日は街へ出た。
杏寿郎さんから、十分すぎるくらいの金銭を渡されていたので、憂さ晴らしにと帽子を仕立てた。
「生地色は、どれになさいますか?」
『ええと……、じゃあ、これで。りぼんはこんな色のものをお願いしたいのだけど。』
「畏まりました。15日ほどいただきますが、よろしいですか?」
『構わないわ。』
生地を選んでいるときだけは楽しかった。
けれど、15日間のことを考えると憂鬱だ。
杏寿郎さんはいつ戻るとは言っていなかったから、もしかしたら15日後も私は一人かもしれない。
『……何だって言うのかしら。私だって、好きでこんな人生を選んだわけじゃない……。』
気を紛らわすためにうろうろしていたら、予想外に遅くなってしまった。
日が暮れてしまう。
屋敷へ向かって早足で駆ける。
だれかが待っているわけではなかったが、日が暮れてから出歩いてはならないと両親にきつく、きつく言われていた。
もう子どもじゃないから、べつに親の言いつけを守ったところでなんということもないのだけど。
「あの、すみません。」
『!!』
家までの真っ暗な道で突然声をかけられ、私は声にならない悲鳴をあげた。
帽子を目深にかぶった小柄な老人だ。
「郵便を出したいんだが、一番近い郵便受けを教えてはもらえないでしょうか?」
老人は、申し訳なさそうな声で言った。
妙な依頼が気持ち悪く、私は大通りを指差して『通りの西の端にありますよ。』と答える。
「申し訳ない、盲いていて、どちらかがわからないのです。
案内してもらえないだろうか?」
老人は、先ほどと同じ申し訳なさそうな声でそう言って、私の腕のあたりを掴んだ。
『……えっ、ちょっと、』
そして、その小柄な体からは想像もつかない力で、その腕を引いた。
逃れようと力を込めるたびに、老人の体がむくむくと膨れ、私の足がとうとう浮いた。
『んーーー!!!』
八百屋で買ったものがバラバラと転がり落ちる。
ダメだ、これは、
鬼だ。
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やも - 冨岡夢の作品を読んでこちらも拝見させてもらいました。やっぱり文章が綺麗に洗練されていてとても好きです!素敵な作品ありがとうございました。 (2020年5月7日 14時) (レス) id: be623916d5 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - Rさんさん» コメントありがとうございます〜!変な文章どころかありがたい文章です…今のところ続きは書いてなうのですが、書くことがあればこの小説にリンクでも貼ろうかなと思ってます! (2020年4月15日 21時) (レス) id: 218c4f48c9 (このIDを非表示/違反報告)
Rさん - 完結おめでとうございます!コメントするの初めてなのですが変な文章になってないでしょうか?とても感動しました!続きなどあれば是非教えて下さい!素敵な時間ありがとうございました (2020年4月15日 14時) (レス) id: f96fb724ca (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - 炎さん» 一気読みできるテンポを狙って書いていたので、コメントうれしいです、励みになります!読んでいただいてありがとうございました! (2020年3月30日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - ss好きの923chanさん» ありがとうございますー!読んでいただけて嬉しいです。また思いつけば短編でも書こうかなとは思ってます! (2020年3月30日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年3月27日 23時