5話 ページ5
翌朝、私が目を覚ました時には、衣紋掛けの隊服と羽織も、杏寿郎さんの姿もなかった。
私はだらしなくはだけた寝巻きも直さずに、きちんと畳まれた杏寿郎さんの布団を眺める。
『……食事の買い出しにでも行きましょうね。』
誰に言うともなく呟いた。
***
昼食の支度をしていると、厨の換気窓をコツコツと叩く音が聞こえてきた。
おや、と思い、野菜の入っていた木箱を踏み台に換気窓を開けると、そこに一羽のカラスが鎮座している。
『カラス?……あら、文が付いているわ。』
杏寿郎さん宛かしら。私が手を伸ばすと、カラスはおとなしく脚を浮かせて文を解かせてくれた。
『ありがとう、ちょうどむきたてのクルミがあるから、これおひとつどうぞ。』
私はカラスの前にクルミを置き、踏み台から降りると、差出人を確認した。
頭上で、コリコリとカラスがクルミを食む音が軽妙に響く。
『……甘露寺蜜璃。』
女性の名前だ。
私は、猛烈に中を見たくなったが、ぐっとこらえて文の皺をのばすと、きれいに畳んで傍へ置く。鍋の火を止め、玄関脇の荷物台にそれを投げるように置いた。
ーーーなんだ、つまり、そういうことね。
私は、猛烈に馬鹿馬鹿しくなり、無心でネギを切った。ネギがなくなれば、ぬかを混ぜた。それも終われば、芋を干した。もくもくと干した。私には、このおままごと以外にやることがない。外に重大な責務を抱え、仲間を持つ杏寿郎さんとは違う。
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やも - 冨岡夢の作品を読んでこちらも拝見させてもらいました。やっぱり文章が綺麗に洗練されていてとても好きです!素敵な作品ありがとうございました。 (2020年5月7日 14時) (レス) id: be623916d5 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - Rさんさん» コメントありがとうございます〜!変な文章どころかありがたい文章です…今のところ続きは書いてなうのですが、書くことがあればこの小説にリンクでも貼ろうかなと思ってます! (2020年4月15日 21時) (レス) id: 218c4f48c9 (このIDを非表示/違反報告)
Rさん - 完結おめでとうございます!コメントするの初めてなのですが変な文章になってないでしょうか?とても感動しました!続きなどあれば是非教えて下さい!素敵な時間ありがとうございました (2020年4月15日 14時) (レス) id: f96fb724ca (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - 炎さん» 一気読みできるテンポを狙って書いていたので、コメントうれしいです、励みになります!読んでいただいてありがとうございました! (2020年3月30日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - ss好きの923chanさん» ありがとうございますー!読んでいただけて嬉しいです。また思いつけば短編でも書こうかなとは思ってます! (2020年3月30日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年3月27日 23時