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「出せ」
と、何もかも見通す目で、冷徹に命じた。まっすぐに私の襟元を指差していた。私は命じられるまま、襟に仕舞った伝票を取り出す。男の目が、また不快げに細められる。私にはわずかも感じられない不快な香りが、漂っているらしかった。やはり藤花か、と鬼舞辻無惨は呟いた。藤の花、たしかに言われてみれば、かの男の着物から漂っていたのはそんな香りである。
「よもや、協力者どもに嗅ぎつけられたか?」
「もしこれで、鬼狩りが大挙して訪れたとして、私には造作もないが…」
「この屋敷の書物の検めも終わらぬうちに、屋敷ごと焼き討ちに遭うのは愉快な話では無いな」
鬼狩り、や、焼き討ち、といった物騒な言葉が、いっそ涼しいほどの平坦さで発せられる。私のことなど見えていない様子で、独り言を続ける。
藤花の香りと、朝訪ねてきた若い男と、焼き討ちと、それらに何に一体関わりがあるのか、私にはわからなかったが、男の考え込む様子を見て、この鬼とかいう賊の集団にも天敵となるような存在があることを察する。おそらくはそれが〈鬼狩り〉と呼ばれたものなのだろう。
「貴様、訪ねてきた人間に何を言った?」
不意に、鬼舞辻無惨が私に詰問する。答えられないので、首を振った。内心を計りかねる冷たい目で私を見たかと思うと、不意に紙に視線を落とす。何の気なしに裏返したところに、「分からない」という私の字を見つけて、きっとそれで今の否定は信用を得たのだろう。彼はしばし思案するような顔をすると、捨てておけ、と私に向かって投げ捨て、そのまま大座敷の方に消えた。
慌てて拾い上げて、思わずそれをまじまじと見る。嗅げども、私には乾いた墨とうっすらと黴臭いような紙の匂いしかしなかった。
***
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せいた(プロフ) - とても面白かったです!話せるようになった主人公が開き直る感じがすきですw続きが気になるますが完結どの事で残念ですが、お疲れ様でした! (2022年10月22日 2時) (レス) @page40 id: 4527c8b3f3 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - みおさん» 嬉しいです〜読んでくださりありがとうございます!いつも終わりどころって迷いますよね… (2022年8月28日 0時) (レス) id: 02e548a085 (このIDを非表示/違反報告)
みお(プロフ) - お、終わりなんですか…?!この作品ほんとに大好きです!!まだ終わる予定は無いのでしたら(?)主様なりのペースで更新頑張ってください!!応援してます!! (2022年8月28日 0時) (レス) @page39 id: 98c132f21e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2022年8月18日 2時