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「黒死牟」
指先に力がこもり、爪が膚に触れた瞬間、無感情な声が刺すように割り込んで、六眼の鬼は弾かれたように立ち上がった。そして声の主に傅く。
「何をしている」
「…無惨様」
鬼舞辻無惨が、音もなくそこに立っていた。
「質問に答えよ」
「…定時の…ご報告に参じた次第…」
「それで?」
「…報告に値することは、何も…」
「聞き飽きたな。使えぬ手足しか無い私は不幸だ」
そして鬼舞辻無惨は軽く腕を上げ、締め切られた障子を指差す。
「私のものに触れたことは目をつぶってやる。引き裂かれる前に消えろ」
六眼の鬼は、煙が解けるように姿を消す。
首を傾いで六眼の鬼の消えた方を眺めていた鬼舞辻無惨は、しばらくして私の方を向いた。
そして足音も荒く目の前までくると、乱暴に私の肩を掴んだ。六眼の鬼に触れられた首の付け根あたりを凝視する。ドクドクと脈動が騒がしい。
「貴様が稀血の人間である限り、その血肉は鬼を誘惑する」
「…貴様は弱く、それを拒絶できない」
無感情な声に、ほんの僅か、怒りのようなものが混じった。
びしゃっ、と顔にしぶきがかかる。咄嗟に目を覆う。激しい嫌悪感が腹の底から噴き上がった。それが彼の血飛沫であると、私はしばらくして気づいた。彼は自身の腕を鋭い爪で裂いていた。
「なれば、鬼になるか?」
「鬼になれば、二度とその血肉は鬼を惑わさぬ」
鬼舞辻無惨は私の顔を掴んで上を向かせる。そして唇の上にボタボタと血を垂らした。私の血を与えてやろう、貴様が鬼になれば、その体は鬼どもを誘惑しない。鬼舞辻無惨の声は無感情なものに戻っていたが、その指にこめられた力はわずかも緩まず、私は顔を歪めた。
「…口を開けろ、私に逆らうのか?」
目尻から、熱い涙が溢れる。一際強い吐き気に襲われ、私は激しく咽せた。
鬼舞辻無惨は顔を顰め、私の顔から手を離す。
「体を流してこい。月の血を流している女を抱く趣味はない」
そして私の寝室から乱暴な足取りで出て行った。
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せいた(プロフ) - とても面白かったです!話せるようになった主人公が開き直る感じがすきですw続きが気になるますが完結どの事で残念ですが、お疲れ様でした! (2022年10月22日 2時) (レス) @page40 id: 4527c8b3f3 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - みおさん» 嬉しいです〜読んでくださりありがとうございます!いつも終わりどころって迷いますよね… (2022年8月28日 0時) (レス) id: 02e548a085 (このIDを非表示/違反報告)
みお(プロフ) - お、終わりなんですか…?!この作品ほんとに大好きです!!まだ終わる予定は無いのでしたら(?)主様なりのペースで更新頑張ってください!!応援してます!! (2022年8月28日 0時) (レス) @page39 id: 98c132f21e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2022年8月18日 2時