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「昼間の使いが居ないのは不便だ」
「役に立つうちは殺さずにおいてやろう」
男は納戸のわきに転がっている着物を一着投げて寄越すと、朝までに屋敷を片付けておけと命じた。
見れば、屋敷じゅう、嵐が通り過ぎたような散らかりようだった。そして不思議と、屋敷の中にいたはずの大旦那様や、小旦那、おかみさん、使用人の誰ひとりとしてそこにはいなかった。そこら中に飛び散っている黒々とした血のあとが、かつてはここに生き物がいて、そして今はいない、ということを私に教えた。
「店の主人はしばらく不在ということにして札でも出しておけ。それから、店の書物をすべて座敷に集めろ」
「逃げたとて、無駄だ。貴様のような稀血の人間は、すぐにでも他の鬼に捉えられて終いだからな」
私は床を這って着物を手に取ると、意味もわからぬまま胸に抱えて莫迦みたいに頷いた。
鬼、と男は言った。
あの男は、賊のものたちは、物語に聞く“鬼”なのだろうか。
頷く私を一瞥すると、男は奥の座敷へ消えていく。しばらくそこで、動けなかった。どうやら、口がきけないという理由で命びろいしたらしかった。男の気配が消えると、そこはやっぱりひどく静かな夜だった。
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せいた(プロフ) - とても面白かったです!話せるようになった主人公が開き直る感じがすきですw続きが気になるますが完結どの事で残念ですが、お疲れ様でした! (2022年10月22日 2時) (レス) @page40 id: 4527c8b3f3 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - みおさん» 嬉しいです〜読んでくださりありがとうございます!いつも終わりどころって迷いますよね… (2022年8月28日 0時) (レス) id: 02e548a085 (このIDを非表示/違反報告)
みお(プロフ) - お、終わりなんですか…?!この作品ほんとに大好きです!!まだ終わる予定は無いのでしたら(?)主様なりのペースで更新頑張ってください!!応援してます!! (2022年8月28日 0時) (レス) @page39 id: 98c132f21e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2022年8月18日 2時