5 ページ11
＊＊＊
朝な夕な、男と蔵に籠っては蔵書の目録をつけ、時に読み下しに付き合い、しかしそんな夜を何度過ごしても、青い彼岸花についての記述は終ぞ見つからないまま、夏の盛りとなった。
ひゅう、と屋敷に夜風が流れて、それから床板の軋む音、誰かが入ってきたことがわかった。
「何の用だ」
男が上体を起こす。
のしかかっていた重みが去って、私はケホ、と小さく咳をした。
来訪者はというと、起き上がった男の体の向こう側に、だらりと横たわった私の姿を見つけて、戸惑ったように眉根を寄せた。
猗窩座と呼ばれていた、刺青の男だった。
「…定時の、経過報告をと」
「もうその時期か」
男ははだけていた着物の前を整えながら、さほど興味もなさそうに言う。
二人が会話を始めたので、頃合いと見て起き上がると、首筋からたらりと血が垂れる。その瞬間、刺青の鬼がぱっと顔を背けた。
「……なんだ、お前、これを食いたいのか？」
それを見た男は揶揄するように言って、薄く唇を歪めた。
「……いえ」
私から顔を背けたまま、刺青の男は曖昧な返事をする。
「じゃあ何だ」
だがそれでは満足しなかったのか、詰問する口調に、刺青の男は諦めたように答えた。
「……無惨様が、人間をお側に置いていると思わず。……ただ驚いただけで」
その声はわずかにうわずっていて、薄暗い寝所の灯りのせいか、紅潮して見える。
あぁ、と合点した。
酔った、とかつてこの男が言っていたじゃないか。私の血や汗や体の匂いで、この猗窩座という鬼は酔っているのだ。
「そんな顔で言っても、説得力などないぞ」
着物を整えて、男は音もなく立ち上がる。
「それで？」
「あ…はい、今のところ、目新しい話は無く」
「犬でももう少し使えるだろうな」
「返す言葉もありません」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 156人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
せいた(プロフ) - とても面白かったです！話せるようになった主人公が開き直る感じがすきですw続きが気になるますが完結どの事で残念ですが、お疲れ様でした！ (2022年10月22日 2時) (
レス) @page40 id: 4527c8b3f3 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - みおさん» 嬉しいです〜読んでくださりありがとうございます！いつも終わりどころって迷いますよね… (2022年8月28日 0時) (レス) id: 02e548a085 (このIDを非表示/違反報告)
みお(プロフ) - お、終わりなんですか…？！この作品ほんとに大好きです！！まだ終わる予定は無いのでしたら(？)主様なりのペースで更新頑張ってください！！応援してます！！ (2022年8月28日 0時) (レス) @page39 id: 98c132f21e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：イトカワ | 作成日時：2022年8月18日 2時
