夏ばて ページ8
＊＊＊
義勇さんを見送って、しばらく玄関でぼんやりとする。この見送りには、慣れようはずもない。祈ることさえ無礼に思える。だって誰に祈ればいい？
「……やっぱり今日も胸やけがするわね……」
義勇さんにも指摘された通り、夏に中てられたのか食欲がなく、日中あまり体調が良くない日が続いている。胸が重たく、吐き戻してしまうこともあった。義勇さんが心配していたのはそれだ。町医者にでも行こう、と立ち上がって、しかし立ち眩みで壁にもたれてしまう。
どうにも体を動かせる気がせず、義勇さんがいないのをいいことに横になって過ごすことに決め、いそいそと寝室へこもった。
ふと目を覚ましたら、夕暮れのぬるい空気が染みるように満ちている。
コツコツと扉を叩く音に、わずらわしさを覚えながらも立ち上がった。
「はあい」
がらりと戸を開ければ、可憐な花のような女の子が立っていて、私は一瞬惚けて棒立ちになった。
「しのぶさん？」
「お久しぶりです。暑いですねえ」
急に嬉しくなって、私は今日はまだ掃除もできていない居間にしのぶさんをお通しする。
「うれしい、お会いしとうございましたわ」
「そうですか？私もですよ。でも顔色があまり優れませんね、夏ばてでしょうか」
「嫌だ、顔に出てましたか。わたくし、…ほら、お恥ずかしながら家のことは全て人に任せてましたから、家事やら何やらが未だに慣れなくて、それで疲れてしまったのだと思うのですが」
「もしかして、今日はお食事もまだですか？」
「食欲があまり…。お吸い物なんかは、飲めるんですけど」
「あら、おかゆなんかもだめですか？」
「変なお話ですけど、炊き立ての匂いが最近だめで。…一度吐き戻してしまってから、怖くなってしまいましたの。…申し訳ないわ、こんなお話」
せっかく来てくれたというのに、まるで往診である。
けれど、久しぶりに女同士、飾らない会話ができてとても楽しい。
もちろん、義勇さんとも日々いろいろとお話はするものの、やはり同性との他愛のない会話は得難いものがある。
しのぶさんは、ふむ、と考えるような仕草をした。
「医者へはかかりました？」
「いえ、まだ…。でも、近々行こうとは思ってますわ。…ごめんなさい、ちょっと、失礼」
寝起きに喋ったからか、急な吐き気に私は立ち上がり、厨へ走る。
「…Aさん、もしかして、」
慌てて後を追ってきたしのぶさんは、背中をさすりながらふいに呟いた。
「それは夏中たりではなく、…妊娠では？」
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Ｒ−アル−(プロフ) - 完結おめでとうございます！！ (2020年10月24日 12時) (
レス) id: 8b5171215e (このIDを非表示/違反報告)
やも - 更新待ってました！続き楽しみです！ (2020年8月3日 3時) (レス) id: f6237b150c (このIDを非表示/違反報告)
瑞姫(プロフ) - 黒死牟邸から来ました(語弊)面白すぎて一気読みしてしまいました、、、大好きです！ (2020年6月25日 0時) (レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
やも - 続編嬉しいです！終わらないでほしい… (2020年6月12日 3時) (レス) id: ae8b2f43ae (このIDを非表示/違反報告)
きゅー(プロフ) - ぎゃん、、夜更かししててよかったです。私もこの作品がほんとに大好きです！！イトカワさんありがとうございます。 (2020年6月12日 2時) (レス) id: edb3b79442 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：イトカワ | 作成日時：2020年6月12日 2時
