雨 -5 ページ3
柔らかい表情のまま、A殿は先ほど俺の唇に触れていた両手で、俺の頬を包む。まだ空は唸っているが、彼女に怯えはない。それどころか、今まさに蛇に睨まれたかのごとく動けなくなっているのは、俺のほうだ。
「俺は、」
A殿の視線に促されて、俺は白状する。
「あなたに使用人になってほしかったわけじゃない」
「だから、屋敷付きにと声をかけるなんて、とてもできないし、したくなかっただけだ」
「俺が声をかけなければ、蝶屋敷で胡蝶らの手伝いでもやってくれるだろうとたかをくくっていた。まさか、他のものの屋敷付きになるなんて思ってもみなかった」
「―――誰の使用人にもなってほしくなかったのに」
こんな情けない吐露があろうか。
俺はほとんどやけになっていた。
「それで、」
A殿は先を促すように言う。
「わたくし、使用人ではなくて、何になればよろしかったのでしょう?」
お友達かしら? と、A殿は首を傾げた。その蠱惑的な仕草にくらくらする。
俺は諦めて、負けを認める。頬に添えられた彼女の手に、手を重ねた。
「妻に……、
……なってほしかったのだと思う」
だのになぜか、彼女は驚いた顔をした。こちらは一世一代の覚悟を決めたというのに。
「……一足飛びですわね」
そしてしばしの沈黙ののち、あっけにとられたように、呟いた。
「恋人だ許婚だと、ぼやぼやしたまま万が一横から攫われたらかなわん」
俺が敬一郎殿からあなたを攫ったように。俺は付け加えた。
そして、恥ずかしくてもう彼女の顔を見ていられなくなって、俯いて目を逸らす。
「あとからやっぱり厭だと言われても、もう遅うございますわよ」
ようやく聞こえてきた彼女の声が震えていて、俺は顔を上げた。彼女の白い顔を見れば、大きな目からぽろりと一粒涙がこぼれる。襟に落ちて、ゆっくりしみ込んでいく。わたくし、初めてお会いしたときからお慕いしてましたもの、離しませんよ、と彼女は続けた。
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R−アル−(プロフ) - 完結おめでとうございます!! (2020年10月24日 12時) (レス) id: 8b5171215e (このIDを非表示/違反報告)
やも - 更新待ってました!続き楽しみです! (2020年8月3日 3時) (レス) id: f6237b150c (このIDを非表示/違反報告)
瑞姫(プロフ) - 黒死牟邸から来ました(語弊)面白すぎて一気読みしてしまいました、、、大好きです! (2020年6月25日 0時) (レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
やも - 続編嬉しいです!終わらないでほしい… (2020年6月12日 3時) (レス) id: ae8b2f43ae (このIDを非表示/違反報告)
きゅー(プロフ) - ぎゃん、、夜更かししててよかったです。私もこの作品がほんとに大好きです!!イトカワさんありがとうございます。 (2020年6月12日 2時) (レス) id: edb3b79442 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年6月12日 2時