第佰参拾捌話 ページ19
ミコside
鬼灯さんが鬼の気配を感じ取ったようで、全速力で西の街に向かう彼女の後を藤之助と追う。
とても胸騒ぎがする。
誰か怪我をしていないだろうか。
段々と、先程感じ取ったような鬼の悪臭が私の元まで届くようになった。
それも、先程の比にならない位の悪臭。
それが表す、自分の力ではどうにもならない鬼がいるという事実。
あの人のことだから大丈夫なのだろうけど、それでも無事でいるか心配になり、私は走る速度を上げた。
街の影が木々の間か見えるようになった頃には、金属が打ち合う音や風を斬る音も聞こえるようになっていた。かなり近い。
自分の身を自身で守れるように日輪刀の柄を握ると、次の瞬間声がした。
「私を迂回して!真っ先に街の人達を避難させなさい!!」
鬼灯さんの声だ、と認識する前に目の前で赤い血が散った。
ひっと声を飲み込む。
虹色の目で金色の髪をした鬼を、彼女が胴体を斬り裂いていた。もしも今鬼灯さんが鬼の身体を足止めしていなかったら。
私は死んでいた。
恐怖で身体が動かない。
硬直していると、鬼灯さんと目が合った。
「早く!!」
その怒声にはっと我に返り、気付けば右方向に走っていた。
私があの鬼や鬼灯さんに対してできることは何も無い。寧ろ足でまといにしかならないことはもう充分理解している。
ならば私は彼女に言われたように、街の人を守るだけだ。
鬼灯さんと鬼が戦闘している場所から近い家に住む人から避難させていく。
あの人が加減しているのか、戦闘による建物の倒壊は殆ど無く怪我人も一切居なかった。
しかしいつこちらに鬼が来るか分からないので街の人を街の西側へと誘導する。
こんな真夜中に起こすのは申し訳ないとも思ってしまったが、戦っている音は結構聞こえていたようで起きて怯えている人も多かった。
幼子を抱き上げ、少年の手を引いて走る。
身体の不自由な人の手助けをしていると、戦闘している周辺の街の人は避難できたようなので、1度様子を見に戻ることにした。
「鬼灯さん…無事でいてっ…」
街の入口に戻ってくると、まだ戦闘は続いていた。傷だらけの鬼灯さんが、それでも刀を降っている。
自分の無力さに拳を握りしめた。
天明華を連発して空中に咲く花を散らすと、彼女は音柱との見た事のある体勢をとった。
あれは…
命の呼吸 玖ノ型 天龍の咆哮
「鬼灯さんっ!!!」
悲鳴のような叫び声は、彼女に届いていたのだろうか。
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作者名:月音 | 作成日時:2019年11月9日 23時