第佰参拾壱話 ページ12
…微かに、鬼の気配を捉えた。1里と少し先だ。
行こうとミコに一声かけて、私達はその鬼の気配がする北東に向かう。
少し走れば距離は近づき私は走るのをやめた。
鬼の気配から強さを感じ取る。
「何か感じる?」
彼女が相手にできる強さの鬼であることを確認してからミコにそう問えば、一瞬の沈黙の後に静かな返答がある。
「…乾いた血の匂いと、ひどい悪臭がする」
その一言に、彼女は鼻がきくのだと察する。
通常の人ならば、この距離では鬼に付着した血の匂いに気付くことはできないし、悪臭は私が感じる鬼の気配と同じようなものだろう。
「じゃあ、その匂いがする方に行ってきて。事が終わるまで、私は手助けしないから」
大嘘だ。万が一彼女が危険になれば戦線離脱くらいは手伝う。
私の言葉を受けたミコは表情を引き締めて、はいと頷いた。
彼女が暗い木々の向こうに姿を消して、私は千里命駕をかなりの広範囲で行った。…この付近にはミコが向かった鬼以外にはいない。
私はほっと息をついて木にもたれかかった。
命の呼吸の使い手は千里命駕があるが、他の呼吸の使い手は自力で鬼からの危険を察知しなければならないのだからかなりしんどいのだろう。
五感、また第六感等の感覚が優れている人は本当に運がいいのだ。
だがしかし伊之助君は普通に可笑しい。
触覚がいくら優れているからといってそれで鬼の居場所を探るのは正直人間技ではない。
するとふっと弱い鬼の気配が消えた。ミコが鬼を斬ったのだろう。
やはり彼女は力があるのだろうと思い、それと共に最終選別のための鬼斬りを何事もなく終えることができたことに安堵した。
戻ってくるミコに合流しに行けば、案の定彼女の眉根が寄って口がきゅっと閉じられていた。
生物の身体が朽ちるのは、それが鬼であっても見ているのは辛いものだ。
「…お疲れ様」
そう一声掛ければ、彼女は地面に座り込んでしまった。
「ご、ごめんなさい…想像以上に、しんどくて」
無理もないだろう。私は片膝をついて、彼女をふわりと抱きしめる。
「うん、よく頑張った」
彼女の頭を撫でたその瞬間、張り詰めた空気感と血の匂いがした。それも、酷くどす黒い血の匂い。
ばっと周囲を見渡しながら範囲を狭めていた千里命駕を使う。
「西…。あの街か!」
浅草に比べれば劣っても、この辺りでは1等大きな街が2里西に向かったところにあった。
置いていくこともできないので、ミコを連れて全速力で街に向かう。
…嫌な予感が、する。
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作者名:月音 | 作成日時:2019年11月9日 23時