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ニンニクせんべい ページ5

夏油さんは制服のズボンのポケットに突っ込んでない方の左手に大きなビニール袋を持っていた

私の視線に気づいたのか大きなビニール袋を掲げてみせる



「あ、これ青森土産」


「そーだ、硝子にあげようと思ってたけどいる?りんごパイかりんごジュースかあ〜、あ、あとはニンニクせんべい」


『じゃあニンニクせんべいで』


「「…」」



出会った衝撃から抜け出せない私は、何を聞かれてるのか大して理解もせず咄嗟に五条さんにそう返した

数秒の沈黙の後、ふっと夏油さんの口元が緩む



「ゲー、お前、普通それチョイスしないだろー」


「ふふ、買ったのは悟だろう」


「それはそーだけど、こんなん半分はネタじゃん」



楽しそうに話す夏油さんに心臓の音が跳ねて、体の内側をずっと駆け巡っていた



「それはそうと、一応授業の時間じゃないのかい?」


『…あ』


「それじゃあ、早く行った方がいいね」


「お〜バイバーイ」



相変わらずさっきの位置から一歩も動けずに遠ざかる2つの背中を見つめる

自分でも分からないけど、彼らの雰囲気に当てられてなんだか私にも青い春が来たようなそんな錯覚に陥る


気が付けば石畳を走って校舎に入る二人を追いかけていた



『あっあの!』



肩で息をする私を、同時に振り返った二人が驚いた顔で見つめる



『好きですっ!』



何してんだ私は、そう思うには一秒もあれば十分だった

驚いて目を丸くする夏油さんと、ぽかんと口を開ける五条さん



『わ!えっと、違くて…い、1年の教室ってどこでしたっけ』



わけわからん発言をごまかそうとさらに訳の分からない発言をしたところで我に返りダッシュで校舎の階段を駆け上がった

後ろから五条さんの笑い声が聞こえたような気がした



勢いよく教室のドアを開けると、先生と同期2人の3人分の視線が突き刺さる



「…山門さん顔赤いけど、体調悪いんですか?」



遅刻に対してはノーコメントでそんなことを言う国語教師の寺内さん

冷たい目線を送ってくる七海にいたたまれなくなって、なぜか楽しそうに笑ってる灰原の横の空席に座る



『大丈夫ではないけどダイジョウブデス…』











「この1か月でアナタという人を知った気になっていましたが、まだまだ分からないものだ」


「ははっ、Aってば、一体どういう風の吹き回し?」


『うるさい、あげる』


「なにこれ、ニンニクせんべい?」



この件で七海と灰原に散々笑われたのはその日の放課後のことだった

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作者名:ビタミンとっき | 作成日時:2023年10月5日 2時

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