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「障り猫ってのはさ――Aちゃんが知っている他の怪異とは、またちょっと種類が違うんだよ。
そうだね、強いてどれかと言うなら、薔薇っ子くんのときの、猿に近いのかもしれない――」
「ああ……両方、ケモノだもんね」
「うん。ただ――前も言ったろう？ 障り猫ってのは、現実に即した言い方をするなら、多重人格障害だからね――言わばブラック天宮くんは、裏の委員長くんだ。
怪異ってのは、そこにいるしどこにでもいるもの――けれど、障り猫の場合、究極的には、委員長くんの中にしかいない。
障り猫は、あくまでただのきっかけであって、媒介であって――問題は委員長くんの中にある、ストレスだ」
ストレス。
学者に言わせれば、それはどんな質問にも答えようとする身体の反応――であるらしい。
最初に襲った相手。
お父さんとお母さん――両親。
今現在、結局は元の鞘だ――冷めた家族、ろくに口も利かない、一緒に住んでいるだけの人間である――それが天宮にとってストレスでないわけがない。
だけど、確かに――一ヵ月は早過ぎる。
またぞろ殴られたというのならまだしも。
「一応、首に鈴をつけておいたからね――それが効を奏したって感じか。
障り猫の、早期発見に繋がった。用心はしておくもんだ。
けど、正直、それが作用するとは僕は全く思っていなかった。これは僕が迂闊だったよ。
僕としては、どんな最悪でも、委員長くんが二十歳になるまでは、持つと考えていたんだ。
聞いた話じゃ、ご両親は委員長くんが成人したら離婚するつもりらしかったし、委員長くんは当然、家を出るつもりだろうから――だからあえて、委員長くんにもAちゃんにも、何も言わなかったんだけど」
「二十歳か……それは、月崎の逆なんだね」
「わかりやすい基準だからね、『成人』は」
苦笑する風の歌詞さん。
「その頃になれば、委員長くんも怪異に魅せられない十分な強さを備えていただろうしね――うん」
「そっか……で、歌詞さん。鈴ってのは、なんなの？」
「頭痛だよ。ゴールデンウィークの間も、委員長くんは、頭痛を訴えていただろう？
その辺を含んで、仕掛けを打っておいたのさ――でも、せめてAちゃんにだけは言っておくべきだったな。
で、委員長くんの頭痛は、いつからだっけ？」
「確か――一ヵ月くらい前とか」
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作者名：灰猫 | 作成日時：2022年9月6日 0時
