ページ ページ18
この初日のことを、この初日に私と交わした会話のことを、天宮がどこまで憶えているのかは、わからない――天宮は天宮のままだったから、猫を埋めたことくらいは憶えているにせよ、しかし細かいところまでは、記憶を失うときに、まとめて失っている可能性は高い。
残念ながら確認のしようがない――確認をした途端に、頭の切れる天宮には露見してしまうからだ。
ともあれ。
枕は終了、ここからの話は単純だ。
翌日、私は、特に用はなかったのだけれど、なんとなく暇を持て余して歌詞さんの住む学習塾跡へと足を向け、そらる(当時はまだ伊東空流という名を与えられてはいなかったが)の様子を見て、歌詞さんとは適当に雑談をした。
その内に、昨日埋めた猫の話を含めた。
なんとなく――ではない。
嫌な予感は、していたからだ。
春休みの地獄に――近い気配。
「Aちゃん。それは――」
歌詞さんは、目を細めながら、確認した。
「まさか、銀色の猫じゃなかっただろうね――」
最終的には、この雑談が効を奏した。
白い髪、白い猫耳で、ブラック天宮(命名・伊東歌詞太郎)と化し、夜な夜な町で好きなだけ暴虐の限りを尽くしていた怪異――障り猫を、ゴールデンウィークの最終日、五月七日に、捕らえることができたからだ。
九日目。
十日を迎えていれば危なかった。
らしい。
スピード解決――とも言えたが、この場合、ぎりぎりとしか言う他なかった。
そらるの協力もあって(この手柄で、彼は歌詞さんから、伊東空流の名を頂戴することになる)、天宮が魅せられた障り猫を封じることには成功し――問題は解決した。
言うならば、あっさりと。
複雑な問題ほど、あっさりと解決するものだ――何故なら、解決したからと言って、問題が消えてなくなってしまうわけではないからである。
トランス状態。
天宮に、ブラック天宮の間の記憶はない――だから。
ブラック天宮が、最初に襲った相手が、自分の今の両親であることを、彼は知らない――
その記憶も戻ったのだろうか。
私は、それが、心配だった。
「記憶の問題はねえ」
と。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 18人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：灰猫 | 作成日時：2022年9月6日 0時
