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「でも、病院には行きなよ。そのガーゼ、自分でやったんでしょ？
お前の器用さは認めるけど、さすがにちょっと不自然だよ」
「うん……わかった。そうだね、どうせすることのないゴールデンウィークだし、診てもらってこようかな。たまには保険証も、使わないと」
「それから――何かあったら、いつでも私に電話して。
どこにいようが、なにをしていようが、いつでもお前の力になるから」
「あはは、何それ、格好いい」
天宮は笑った。
いつも通りの笑顔で。
「何かって、何さ」
「それは、だから――」
「うん、わかったよ、Aちゃん」
そして、言った。
「何かあったら、すぐに電話するから。メールでもいいよね？」
言った。
そう言ったものの――
結局、ゴールデンウィークの間中、私の携帯電話に、天宮からの着信も羽川からのメールも、ただの一回たりともなかった。
必要なときにそこにいるということ――ただし。
私はこのとき、命の恩人である天宮から、全く必要とされていなかったということだ――人恋しかったけれど、それは単に、八つ当たりする、憂さを晴らす、そんな相手が欲しかっただけ――必要とされてもいないのに、私は無様にも、そこにいたのだった。
必要とされていたのは、猫だ。
猫。
怪異には、それに相応しい理由がある。
それから私達は、それまでの会話には一切触れず、蒸し返すことなく、これからのクラスの予定について、話し合うことになった。
主として文化祭についての話だ。している内に、クルマに轢かれて死んでいる猫を見つけた。
首輪がないところを見れば、野良猫だろう。尻尾のない、白い猫だった。
元々尻尾のない種なのか、路上生活の末に千切れてしまったのか、それはわからない。
白い猫――見方によっては銀色のようにも見えるが、しかし、どちらにしたって、自身の血の色に染まって、その地毛の色は台無しだった。
一度轢かれた後、何度も後続車に轢かれたのだろう、酷い有様である――天宮は迷わず、当たり前のように歩道から車道へと出て、その猫を拾い上げた。
「手伝ってくれる？」
天宮にそう聞かれて、頷かない奴はいない。
私達は、近くの山にその猫を埋めてやって――こうして、四月二十九日、天宮と私にとって悪夢の九日間の最初の一日、プロローグとしての一日は、幕を閉じたのだった。
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作者名：灰猫 | 作成日時：2022年9月6日 0時
