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確かに__命の危険という意味や、周囲に及ぼす迷惑という意味では、吸血鬼に襲われるなんてのは、冗談じゃない話だ。死んだ方が楽だと何度も思ったし、今だって、一歩まかり間違えば、そう思ってしまうこともある。
だから。
相川は、運の悪い方では、運のいい方なのかもしれない。けれど、天宮に聞いた中学時代の相川の話を思えば、単純にそうまとめ、そう認識するのには、無理があるような気がする。
少なくとも、平等ではないのだろう。
ふと思う。
天宮は___天宮翔太はどうなのだろう。
天宮翔太の場合。
翔という、異形の羽を、持つ男。
私が鬼に襲われ、相川が蟹に行き遭ったように、天宮は猫に魅せられた。それが、ゴールデンウィークのことだ。あまりに壮絶で、終わってしまえば遥か昔の出来事のようだが、つい、数日前の事件である。
とはいえ、天宮は、そのゴールデンウィークの際の記憶をほとんどなくしているので、天宮本人は、歌詞さんのお陰でそれがなんとかなったことくらいしか分かっちゃいないだろうけれど、ひょっとしたら、何も分かっちゃいないかもしれないが、それでも、私は__すべてを覚えている。
何しろ、厄介な話だった。
既に鬼を経験していた私がそう思った。鬼よりも猫の方が怖いなんてことがあるとは、よもや考えたこともなかったけれど。
やっぱり、命の危険だったりの観点から見れば__相川より天宮の方が悲惨だったと、単純に言えるのだが、しかし__相川が一体どれほどの思いで今に至っているかを考えると。
現状を考えると。
考えてしまうと。
優しさを敵対行為と看做すまでに至る人生とは、一体、どんなものなのだろう。
影を売った若者。
重みを失った彼。
私には、わからない。
私にわかる話じゃ__ないのだ。
「シャワー、済ませたよ」
相川が脱衣所から出てきた。
すっぽんぽんだった。
「ぐあああっ!」
「そこをどいてよ。服が取り出せない」
平然と、相川が、濡れた髪を鬱陶しそうにしながら、私が背にしていた衣装箪笥を指さす。
「服を着ろ服を!」
「だから今から着るの」
「なんで今から着るんだ!」
「着るなって言うの?」
「着てろって言ったんだ!」
「持って入るのを忘れていたの」
「だったらタオルで隠すとかしやがれ!」
「嫌だよ、そんな貧乏くさい真似」
澄ました顔で、堂々としたものだった。
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がむしろ(プロフ) - コメント失礼します!とても面白く、原作の化物語の通りに書かれていて、読んでいてとても楽しかったです! (2022年4月13日 23時) (レス) @page1 id: b2402acd1c (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - ヒマリンさん» ヒマリンさんコメントありがとうございます!わざわざこの作品を見つけてくださり、そう言ってもらえて恐悦至極です!これからも原作通りに進められるよう頑張ります!! (2021年8月3日 19時) (レス) id: 75a262f2fa (このIDを非表示/違反報告)
ヒマリン - 本当に化物語の通りでした。 すごいです。 (2021年1月7日 10時) (レス) id: 88fe224ab8 (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - うたねこさん» うたねこさん初めまして、感想ありがとうございます!どちらも好きな方がいらっしゃるとは…!? 緩やかですが楽しみにしていただけているのなら光栄です(*'∀`*) (2020年3月22日 22時) (レス) id: 06fe930ba8 (このIDを非表示/違反報告)
うたねこ(プロフ) - はじめまして!物語シリーズもまふさんも好きなのでめっちゃ嬉しいです。お話もこれからすごく楽しみです! (2020年3月22日 17時) (レス) id: f217387575 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灰猫 | 作成日時:2020年3月20日 4時