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「……それで?」
「お坊っちゃんならどうする?」
「別に__その状況になってみないと、わかりません。売るかもしれないし、売らないかもしれない。そんなの、値段次第ですし」
「正しい答だね。たとえば、命とお金とどっちが大切なんだって質問があったりするけれど、これは質問自体がおかしいよ。お金と一口に言っても、一円と一兆円とでは、価値が違うんだし、命の価値だって、個々人によって平等じゃない。命は平等だなんて、それは僕が憎む、低俗な言葉だよ。まあ、それはともかく__その若者は、自分の影なんてのは、金貨十枚の価値よりも大事だとは、とても思えなかったんだ。だってそうだろう? 影なんかなくても、実質、何も困りやしないんだから。不自由はどこにも生じない」
歌詞さんは身振りを加えながら、話を続けた。
「しかし、その結果、どうなったか。若者は、住んでいた住人や家族から、迫害を受けてしまうんだ。周囲と不調和を起こすことになる。 影がないなんて不気味だ__と言われてね。それはそうだよ。不気味だもん。不気味な影という言葉もあるけれど、影がない方がよっぽど不気味さ。当たり前のものがないなんて。__ね。つまり、若者は、当たり前を金貨十枚で、売ったということなのさ」
「…………」
「若者は、影を返してもらおうと老人を探したけれど、いくら探しても、どんなに探しても、その不思議な老人を、見つけることはできませんでした__とさ。ちゃんちゃん」
「それが__」
相川は。
表情を変えずに、歌詞さんに応えた。
「それが一体、どうしたっていうのですか」
「ううん、別にどうもしないよ。ただ、どうだろう、お坊っちゃんには身につまされる話なのではないかと思ってね。影を売った若者と、重みを失ったお坊っちゃん、だから」
「僕は__売ったわけでじゃありません」
「そう。売ったわけじゃない。物々交換だ。体重を無くすことは、影を無くすことよりは、不便かもしれないけれど__それでも、周囲との不調和ということなら、同じだしね。でも__それだけなのかな」
「どういう意味です?」
「それだけなのかなという意味だ」
歌詞さんはこの話はこれでおしまい、と言った風に、胸の前で両手を打った。
「いいよ。わかった。体重を取り戻したいというのなら、力になるさ。蒼音ちゃんの紹介だしね」
「……助けて__くれるんですか」
「助けない。力は貸すけど」
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がむしろ(プロフ) - コメント失礼します!とても面白く、原作の化物語の通りに書かれていて、読んでいてとても楽しかったです! (2022年4月13日 23時) (レス) @page1 id: b2402acd1c (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - ヒマリンさん» ヒマリンさんコメントありがとうございます!わざわざこの作品を見つけてくださり、そう言ってもらえて恐悦至極です!これからも原作通りに進められるよう頑張ります!! (2021年8月3日 19時) (レス) id: 75a262f2fa (このIDを非表示/違反報告)
ヒマリン - 本当に化物語の通りでした。 すごいです。 (2021年1月7日 10時) (レス) id: 88fe224ab8 (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - うたねこさん» うたねこさん初めまして、感想ありがとうございます!どちらも好きな方がいらっしゃるとは…!? 緩やかですが楽しみにしていただけているのなら光栄です(*'∀`*) (2020年3月22日 22時) (レス) id: 06fe930ba8 (このIDを非表示/違反報告)
うたねこ(プロフ) - はじめまして!物語シリーズもまふさんも好きなのでめっちゃ嬉しいです。お話もこれからすごく楽しみです! (2020年3月22日 17時) (レス) id: f217387575 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灰猫 | 作成日時:2020年3月20日 4時