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数年前、駅前に進出してきた大手予備校のあおりをもろに食らう形で、経営業に陥り、潰れてしまったそうだ。私がこの、四階建てのビルディングの存在を知ったときには、もう見事な廃墟になった後だったので、その辺りは全て、聞いた事情という奴だけれど。
危険。
私有地。
立入禁止。
そんな看板が乱立し、安全第一のフェンスで取り込まれているものの、そこらじゅうが隙間だらけで、出入りは自由と言っていい。
この廃墟に__歌詞さんは住んでいる。
勝手に居ついてる。
春休みから数えて、一ヶ月、ずっとだ。
「それにしてもお尻が痛い。じんじんする。ズボンに皺がよっちゃったし」
「私の責任じゃない」
「言い逃れはやめて。切り落とすよ」
「どの部位をですかっ!?」
「自転車の二人乗りなんて僕は初めての経験だったのだから、もっと優しくしてくれてもよさそうなものじゃない」
優しさは敵対行為じゃなかったのか。
言うことなすこと滅茶苦茶な男だ。
「じゃあ、具体的にはどうすればよかったのさ」
「そうだね。ほんの一例だけれど、たとえば、あなたの鞄を座布団代わりに寄越すなんてのはどうだったかな」
「自分以外はどうでもいいのかお前は」
「お前呼ばわりはしないで。ほんの一例だけれどって言ったじゃないの」
それが何のフォローになっているのだろう。
はなはだ疑問だった。
「ったく__実際、マリー・アントワネットだって、お前よりはもう少し謙虚で、慎み深い人間だったでしょうよ」
「彼女は僕の弟子みたいなものなの」
「時系列はっ!?」
「気安く僕の言葉に突っ込みを入れないでくれるかな。さっきから、もう、本当に馴れ馴れしい。もしも知らない人に聞かれたらクラスメイトだと思われるじゃない」
「いや、クラスメイトじゃん!」
そこまで否定されるのかよ。
なんだか、あんまりだ。
「たく……お前を相手にするには、どうやらとてつもない忍耐力が必要とされるようだな……」
「阿良々木さん。その文脈だと阿良々木さんじゃなくて僕の性格が悪いみたいに聞こえるよ?」
そう言ったんだ。
「ていうか、お前、自分の鞄はどうしたのさ。手ぶらだけど。持ってないの?」
そういえば、相川が、手に荷物を持っている図というのを、私はこれまで、見た覚えがない。
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がむしろ(プロフ) - コメント失礼します!とても面白く、原作の化物語の通りに書かれていて、読んでいてとても楽しかったです! (2022年4月13日 23時) (レス) @page1 id: b2402acd1c (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - ヒマリンさん» ヒマリンさんコメントありがとうございます!わざわざこの作品を見つけてくださり、そう言ってもらえて恐悦至極です!これからも原作通りに進められるよう頑張ります!! (2021年8月3日 19時) (レス) id: 75a262f2fa (このIDを非表示/違反報告)
ヒマリン - 本当に化物語の通りでした。 すごいです。 (2021年1月7日 10時) (レス) id: 88fe224ab8 (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - うたねこさん» うたねこさん初めまして、感想ありがとうございます!どちらも好きな方がいらっしゃるとは…!? 緩やかですが楽しみにしていただけているのなら光栄です(*'∀`*) (2020年3月22日 22時) (レス) id: 06fe930ba8 (このIDを非表示/違反報告)
うたねこ(プロフ) - はじめまして!物語シリーズもまふさんも好きなのでめっちゃ嬉しいです。お話もこれからすごく楽しみです! (2020年3月22日 17時) (レス) id: f217387575 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灰猫 | 作成日時:2020年3月20日 4時