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「A〜?」
何度も聞き慣れた私を呼ぶ声に、私の耳は敏感に反応する。
後ろを振り向けば、学校指定のダサいジャージですら、かっこよく着こなす紫耀の姿があって。
「平野」
私がそう呼び返して机を一回床に置くと、紫耀はちょっと顔をしかめる。
「あ、また平野呼び」
「学校では平野って呼ぶって言うた」
「何か気持ち悪いんやけど。Aの平野呼びしっくりけぇへん」
「……で、なに?」
悪い気はしなくて、でも学校での平野呼びを辞める気もない私は話をすり替える。
そうすると、ちょっとバカな紫耀は、あっ、と左手に持ってた教科書を私に差し出す。
「これ、ありがとう。助かりました」
そう言ってニコニコしている紫耀から、どういたしまして、と、教科書を受け取ろうとすると、教科書がさらっと私を交わして、紫耀の体と共に横を過ぎて行く。
「この机どこまで持って行くん?教科書のお礼」
そう言って、紫耀が机を軽々と持ち上げる。
「私の教室まで」
そういうと、おっけー、とニコニコしながら歩き出し、私も慌てて横に並ぶ。
「なんで机運びなんてしとるん?」
「明日転校生が…ってこれ、言ってよかったのかな…」
「へえ、でも山田先生もわざわざ女のAに頼まんくてもええのにな」
紫耀は、本当にただ何気なく発した言葉なんだろうけど、私は、ああちゃんと女だと思ってくれてたんだ、なんて嬉しくなってしまう。
でもそれを表に出すことも出来ず、あっという間に教室に着く。
「ここでええんかな?」
と、紫耀は私の隣の席に机を並べた。
「うん、ありがとう」
私が古典の教科書も受け取ってそういうと、紫耀は、どういたしまして、とへにゃりと笑って、じゃあ、と何事もなく去って行く。
今日はなんだかたくさん喋ったな、なんて、1日を振り返る。
だからと言って期待をするわけでもない。
紫耀を知ってるからこそ、彼が私に何の感情も抱いていないくらい分かってるし。
充実感と共に、よく分からない虚無感が、私の中をいっぱいにする。
考えるのはやめよう。
古典の教科書をロッカーに戻して、私は教室を後にした。
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あきんちょ - めちゃめちゃ良かったです!ぜひぜひ2nd season かいてほしいです! (2019年5月7日 23時) (レス) id: 5f9a7e6066 (このIDを非表示/違反報告)
タロウ - ののさん» コメントありがとうございます!わたしの処女作品から!嬉しいです!拙い文章ではありますが、楽しんでもらえれば幸いです!!作者登録はあまりするつもりはありません…フリーダムにやっていきたいなあ、なんて思っていて…これからもよろしくお願いします。 (2017年11月14日 19時) (レス) id: 9be0b69fd5 (このIDを非表示/違反報告)
のの(プロフ) - 「世界はそれを愛とよぶ」から拝見しています。タロウさんの作品に出会い、久しぶりに頻繁に占ツクにアクセスするようになりました!差し出がましい申出かとは存じますが、タロウさんは作者登録はなさらないのですか?これからも続き、楽しみにしています! (2017年11月14日 8時) (レス) id: dbdd18e851 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:タロウ | 作成日時:2017年11月12日 22時