How to love me?【赤緑】

33 ページ33

「錦戸先生、体育館でバスケしてるって」

「え、マジ？絶対カッコいいじゃん」

「それな、普通にリアコ枠〜」

「皆で見に行こ！」



わいわいと廊下で女子の声が聞こえ、去っていく。

甘いルックスの錦戸先生は着任早々ファンクラブが発足したらしい。
このまま俺に構わずに過ぎてくれればエエ。

確かにそう約束はしたけど、あれは絶対キスの先まで流されてまうやつやん。
そんなことしたらまた大学時代の自分に戻ってしまう。



「大倉もさ、体育館行けば？」

「何で」


肘でツンツンしてきたのは同僚の北山。
コイツとはどうやって仲良くなったのか覚えてへんけど、ちょこちょこ遊んだり飲みに行ったりする仲。


「バスケしたら人気出るでしょ」

「俺バスケ苦手」

「その身長でバスケ苦手な方が珍しいよね」

「じゃあお前が行けばエエやん」

「俺テストまだ作ってないもん」

「おっそ」



地理担当の北山はナントカ全集2022っていう分厚い資料集とにらめっこしてる。

また入学おめでとうテストで新入生を虐めるつもりらしい。
去年のテストで平均点が低すぎたから反省してるんやと思ったけど。


「よし、決めた。アルミニウム生産量と発電量の関係を考察させよう！」


カタカタとパソコンに文字を打ち込んでいく。
また今年も新入生が泣くはめになりそうやな。

はあ、と溜め息をついて、席を立った。
職員室の空調効き過ぎてて暑いねん。

裏口からこっそり校舎を抜け、外の空気を吸った。
今は昼休みやから外出てもエエんやけど、何となく悪い事してる気になるのは何でなんやろ。

桜満開やん。
これやと入学式の前に散ってまいそうやん。
可哀想に。




ズボンのポケットに突っ込んでたスマホが急に振動した。
だいたい皆LINEで済ませるのに、電話やなんて珍しい。



「え……？」



画面に表示された名前に鼓動が速くなる。
嘘に決まってる。
この人が俺に電話なんてかけてくるはずがない。

震えてきた指に力を入れて、深呼吸。
もう一度確認してみるけど、やっぱり表示は変わらへん。

何で今？
何でかけてきたん？


この人と話したらまた堕ちていくような気がして、通話表示をタップするのに躊躇する。
でも結局、話したいという欲が勝って。


「もし、もし」

「もしもし、大倉？」

「ぅん」

「お前出るん遅すぎ」


ふは、って電話越しにすばる君が笑った。
傍になんていないのに、傍にいる錯覚に陥って。

蓋をしたはずの感情がドロリ、と心から流れてきた。


.

34　赤side→←32

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す