How to love me?【赤緑】

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「錦戸君……」

「もう名前覚えてるんすか、凄いっすね」

「授業は？」

「え？あー、もう始まってるんか」


今気づいた、みたいな反応する錦戸君。


「次は……英文法の授業か。ならエエや」

「ちゃんと授業出なアカンよ」

「えー。大倉先生が俺探してるっていうからわざわざ来たんに、冷たくない？」

「俺が錦戸君を探してる？」

「やって福田達が言うてたで」



福田……誰や。
身に覚えがない名前なんやけど。



「分からんの？俺の名前は覚えてたのに？」

「……。」


えーと、あ、雑誌見てた子か。
あの子、福田って言うんや。


「何で俺の名前だけ覚えてたん？」


錦戸君がずいっと詰め寄ってくる。

近くで見ると更に綺麗な顔してんな、って思った。
櫻井先生といい、松本先生といい、錦戸君といい。
この学校、イケメンばっかやん。


「もしかして、先生、俺の事好きなん？」



錦戸君の整った顔で詰め寄られると、不覚にも慌てた。



「なわけないやろっ」


近すぎ。
さっと錦戸君から距離をとったら軽く笑われた。


「錦戸君、何で1時間目来んかったん？」

「あー……妹送ってた」

「え？」

「妹、園児やねん。うち、シングルマザーやし。オカンは朝早いから。俺が妹を保育園に送ってんねん」


ドクン、と胸を突かれた気がした。

錦戸君を問題児ってみなしてた自分を殴りたい。

なんていえばエエのか分からんくて、必死に自分のなかで言葉を探してると、ふはって錦戸君が盛大に笑った。



「ははは、先生、ホンマおもろい」

「え！もしかして今の！」

「嘘に決まってるやん。ただのサボり」


呆れすぎて、注意する気にもならへん。
なんなん、この子。

笑い過ぎて、ヒーヒー言いながら目尻押さえてる、錦戸君。
そんな、涙でるほど笑わんでエエやん！



「はー、エエおもちゃ見つけたわ。よろしくな、大倉先生」

「おもちゃ ちゃいます！」


はい握手、って差し出された錦戸君の手を、思いっきり握ったった。
ふん。



「じゃーね、先生」


まだ教師ちゃうけど、一応年上なんやから敬語使えよ。

手振って化学室出て行く錦戸君の背中に向かって小さく、そう注意した。



あの子と話してたら、すばる君の事忘れられてる自分に気付く。

まだ今は「大倉」って言うすばる君の声を思い出して泣きそうになる夜もあるけど、いつかはすっかり忘れられるはず。

次は一年生の教室に行こう。
ふうっと深呼吸して、俺も化学室を出た。




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