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「ホンッマ、それ、自分で分かってて言うてるん?」

「何があ?」

「……っもう、お前ホンマ可愛え」



ギュって抱きしめられると、ヤスの匂いがした。
ふわって香る、エエ匂い。

スーツを邪魔そうに脱ぎ捨てて、ヤスはちゅ、って瞼にキスをくれる。
ちゅ、ちゅ、ってわざと音立ててするからめっちゃ恥ずい。

言うタイミングはいつやろう。
終わってから?ううん、今言っときたい。



「ヤス。あんな、俺な?」

「ん?」

「バイト、辞めるん」

「え。」

「やから、これが最後、やねん」

「え、嫌やって」

「ごめん」

「嘘やん」



何で、って理由を聞かないのはヤスの天然か、優しさか。
嘘やん、って何回も呟くヤスに俺は謝ることしか出来ひんかった。


「ホンマに言うてるん?」

「うん。ヤスには俺から言っときたくて」


冷え切ってるヤスの体を、俺は抱きしめた。
ヤスの中に少しでも自分がいることへの嬉しさと、少しの罪悪感。



「最後に、抱いて欲しいねん」


耳元で囁く俺ってちょっと卑怯やなって思う。
この店で何年か働いてると、嫌でも身についてまう技をこんな時にも使う自分って狡い。



「大倉、好きやで」

「……嬉しい」


ふにゃん、って笑ってみせる。
こうしないと何だか泣いてまいそうやったから。

こんなストレートに言われたの、久しぶり過ぎて。
好きって言われるのがこんなに嬉しい事なんやって思った。

ヤスを好きになれたら。
すばる君と出会わなければ。



「大倉の、アホ……っ」

「アホちゃうし」



ヤスは終始、泣きそうな顔をしていた。
でも決して涙は流さなかった。
泣く一歩前のその表情に、俺も何故か苦しくなる。

アホ、とかマヌケ、とか。
ずっと俺の悪口を言いながら抱いていた。

今までにないくらい優しく扱われて。
俺が泣いてまいそうになる。


「何で大倉が泣きそうなん?」

「泣きそうちゃうしっ」




ああ、この人が好きって言えればエエのに。


お互いが泣きそうな顔して、繋がってる異様な光景。
最後は声にならへん声を発しながら果てた気がする。



「大倉、ホンマに、好きやったから」



寝てる振りしてる俺にヤスがそっと唇を落とした。

パタン、って静かにドアが閉まる音がして。
俺はほんの少しだけ泣いた。


何で自分が泣いてんのか分からんかったけど、溢れてきた涙はシーツに染み込んでいく。



.

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れいんと。(プロフ) - ヒイM45さん» はじめまして。私も一生、赤緑が担当です。赤緑作品は新作が少なく、更新が途絶えてるものが多いので寂しいですよね😢いつか甘々な赤緑を書きたいと思っています。 (2022年3月27日 8時) (レス) id: e2762dc7c7 (このIDを非表示/違反報告)
ヒイM45(プロフ) - はじめまして。いつも更新を心待ちにしていた未練タラタラ赤緑強火です。素敵な作品をどうもありがとうございます。完結してしまった喪失感はありますが、また是非是非!貴重な赤緑作品をお願い致します🥺赤緑バンザイ!!そして橙緑も楽しませて頂きます♪ (2022年3月26日 22時) (レス) @page43 id: 0c2aba4953 (このIDを非表示/違反報告)
れいんと。(プロフ) - 羽世さん» ありがとうございます!私も強火すば倉担なんですけど、最近はすば倉担そのものが少なくなってる気がしてるんです〜😭ふっふっふ、ちょっとお待ちくだされ。 (2022年2月19日 16時) (レス) id: e2762dc7c7 (このIDを非表示/違反報告)
羽世 - んんん!最高です……。すば倉担なのですば倉の新作があって嬉しいです😢 次話からtornの予感もして楽しみです。更新待ってます!! (2022年2月19日 16時) (レス) id: 5dae2b6d43 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:れいんと。 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年10月7日 20時

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