57. ページ7
人の来ない教室でそのまましばらく
松村先生の行方を考えたが、
少しも思い当たる節はなかった。
京本先生の言う通り、
ずっとこうしてもいられないなと
まだ賑やかな廊下を歩き出す。
ざわざわと賑やかな廊下。
こんなに沢山人がいるのに、
その中に先生だけがいないことが
とても不思議なことに思えた。
先生が1人いなくなったところで、
大して変わり映えしない風景に、
昨日、私を呼び止めた先生すらも
幻だったように感じる。
私だけが夢を見ていたような。
本当は松村先生なんて元からいなかったような。
あと1時間半もすれば、
学校の中は全て元通りになってしまう。
5日もすれば準備室の匂いは変わってしまうだろうし、
3ヶ月もすれば私だって
平気な顔をして笑っているんだと思う。
私だけは忘れたくないと思っても、結局、
そんな覚悟は時間が簡単に洗い流してしまうのだ。
はぁ、と小さくため息を吐く。
それと同時に、肩を掴まれて、恐る恐る振り返った。
「森本くん…」
「やっと見つけた！」
ぜえぜえと肩を上下しながら、
よかったぁと森本くんは笑う。
「今年は一緒に回ろうって約束したじゃん！」
「あ…ごめん」
「忘れてたでしょ？」
素直に頷くと、
色々あったもんね、と
心配そうに眉を下げた。
「ごめんね」
「まだ時間あるよ。少しだけど、一緒に回ろう？」
歩き出す森本くんに合わせて私も歩を進める。
人にぶつからないように
少し左側にズレると、
トンと肩が当たって、森本くんと目が合った。
「あのさ、いつも、私のこと見つけ出してくれてありがとう」
森本くんは、
何回でも見つけるから気が済むまで迷子になっていいよ、と
照れたみたいに目尻を下げる。
「…泣いた？」
「うん」
「そっか、じゃあお腹減ったでしょ！ワタクシがお好み焼きをごちそうしてあげましょう！」
隣を歩いている間、
私が隣にいることを何度も確認しては、
取り留めのない話をして、
沢山笑いかけてくれる森本くんに、
私はいつも光を当ててもらってばかりだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 365人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はねこ(プロフ) - moonさん» moonさん、お読みいただき、コメントまでありがとうございます（ ; ; ）この小説！というものは特にないのですが、町田そのこさんの文章が好きで影響を受けているかもしれないです。また、余談ですが歌詞を読むのも好きです！今後ともよろしくお願いします(^^) (6月25日 19時) (
レス) id: 9f2c7cf6f4 (このIDを非表示/違反報告)
moon(プロフ) - 更新楽しみにしてました！！( ´•̥_•̥` )はねこさんが書かれる文章が綺麗で、とても引き込まれるのですが、普段読まれていたり影響を受けた小説とかってありますか？読んでいて気になりましたので、差し支えなければ教えていただきたいです> < (6月25日 3時) (レス) id: 5847df65e8 (このIDを非表示/違反報告)
はねこ(プロフ) - 翡翠さん» 翡翠さん、お読みいただき、嬉しいコメントまでありがとうございます！頑張って更新して参りますので、引き続きお楽しみいただければ幸いです(^^) (5月18日 22時) (レス) id: 9f2c7cf6f4 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 深夜に読んで号泣してます（т-т）松村先生帰ってきて~(;_;)(;_;)(;_;) 素敵なお話ありがとうございます(><)更新楽しみにしてます、！ (5月17日 2時) (レス) @page6 id: 6c0d9e0967 (このIDを非表示/違反報告)
はねこ(プロフ) - まゆみんさん» まゆみんさん、コメントありがとうございます。先ほど更新致しました。表示されておりますでしょうか？ (5月15日 0時) (レス) id: 9f2c7cf6f4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：はねこ | 作成日時：2022年9月7日 0時
