渇いた喉は、紫の所為

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10年前、深澤に借金を返すために必死に働いていた兄は亡くなる直前、私に携帯を差し出した



"ここに借金の借用書の原本がデータで入ってる"



"これがあればAは逃げられるんだよ"




中学に入ったばかりの私にはそれがどういう意味かさっぱりわからなかったけれど、大切に大切に肌身離さず持っていた





しかし、施設に引き取られた私を訪ねてきた深澤によってそれはあっという間に取り上げられて




『返して！！！』


「ごめんね？お嬢ちゃん、名前なーんていうの？」


『…………A』


「そっか。Aちゃんか………かあいいね」




同じ目線にしゃがんでから私の頭に手のひらを、ぽん、と乗せて、言い放った



「Aちゃんの兄貴を追い詰めたのは、俺だよ？だから恨むなら恨んでいい。やり返したいなら




………この携帯を奪いに来な？」





その言葉をひと時も忘れるとこはなかった




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すぐに消されると思ったのに、深澤は私を抱きしめたままベッドに横になった



『スるなら……さっさとして』


「あぁ？んことしねぇわ」


『……え？』


「早く……キスしてぇ。とは思った」


『な！何言って、』



ニヤ、と笑ってから、親指で下唇をゆーっくりなぞられて、ピンクのグロスが剥がれていく感覚……だめ、嫌なのに……なんでか深澤の視線から目が外せない



「恨んでる相手にそんな顔、見せていいんだ？」

『べ、別に可笑しい顔なんてしてっ、んん！』



初めから、俺のものだ、と命令されているようなキス


首の後ろに回された手が頸を掴んで離さない



『ん、や！め、』



必死に深澤の肩を押して抵抗してもその手首を掴まれてシーツに縫い付けられれば完全に跨がれてしまって、私を見下ろすあいつの顔は……裏社会を制した者のそれだ



「借金、あれからずーっと返してもらってねぇんだよ？


進んで会いにきてくれて、探す手間省けたわ」



『じゃあ、携帯を取り上げに来た時、どこにでも私を売り飛ばせばよかったじゃない！』



「ふは、Aはなーんも分かってねぇよ？」



『………なによ、』




深澤の顔がゆっくり降りてきて




唇が、ちゅ、と触れた







「他の奴に、こーんないい女になる岩石、





…………渡してたまるかよ」





ああ、一生もう、逃げられないかもしれない




お兄ちゃん、ごめんなさい




涙が流れる頬を深澤の指が何度もそれを拭っては




アイツは私にキスを落とした








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