モデルの目黒さん ページ9
新作のシリーズを履いた上半身裸のモデルが何人も会議室に集められて、あれやこれやと意見をしている
「あー、この生地いいっすね、蒸れにくそう」
「これはちょっとゴムが、はい、痛くなるかもっす」
男性用の下着メーカーで開発を担当している私にとって、試着会は地獄だった
なにせ男性が苦手なのだから
大学で繊維の研究をしていたから、ファンションを扱う研究職は喉から手が出るほどなりたい、夢のような仕事だった
教授の推薦で採用が決まった後、まさか自分が男性用の下着の担当になるなど予想もしていなかったから、言い渡されたときは目眩で倒れそうだった
日々の研究は特に問題はないし、やりがいのある仕事だとも思えているけれど、なにせこの試着会だけは広告塔にもなるイケメンモデルたちと接するという、恐ろしい修行がなにより辛かった
『あ、そ、そう、ですか』となるべく顔を伏せながら肩をすくめて話すけれど、テクノカットに腹筋がバキバキの顔立ちの素晴らしい目黒さんは、私の目線を捉えようとしゃがんで話したり覗き込んできたりと妙に距離感がおかしい気がする
嫌悪感を表情に出すまいと普段はしないはずのメガネのブリッジを何度も押し直して、冷静さを保とうとするけれど、段々震える手に力が入らなくなってきて資料にうまく字も書けない
またシャ、とカーテンが開いて「あの、」と試着室から出てきた彼に声をかけられる
『な、なんで、しょう』と俯き加減で答えると
「なんか…俺、嫌われてます?」
と聞かれてしまった
『いえ、そんなことは、』と言葉が詰まると「Aちゃ〜ん、にゃは、顔色悪いぞ?大丈夫〜?」と頼れる同期の安心する声が聞こえる
『佐久間くん、』
彼の背中を盾にするようにすーっと摺り足で移動する
「んあ〜めめ、あんね、この子、男の人苦手なんだぁ。あ、でも、気にしないで大丈夫だから!」といつものニカっとした笑顔を向けている
「ちょーっと休んでくる?」と振り向いて優しく目を合わせられると、ふるふる首を縦に振る
「うん、俺の担当の子終わったし、ゆっくりしといで〜」と背中を押された
屋上で眼鏡を外し、缶コーヒーを片手にため息をつく
(目黒さんに悪いことしたな)
基本的にモデルは新商品が出る度に変更となるから、もう彼に会うことはないしな、なんて適当に考えていた
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kae(プロフ) - あいさん» もうなんとお礼を伝えて良いのかわかりません…あい様のその気持ちで益々やる気が出てきました( ; ; )もう、そう言っていただけるだけで十分です!また嬉しいコメントをいただけるように頑張ります( ; ; )これからもぜひぶつけてください!笑 (2021年8月19日 6時) (レス) id: 03cd483279 (このIDを非表示/違反報告)
kae(プロフ) - amanonさん» amanon様…!リクエストありがとうございます( ; ; )長編が完結しましたら、ぜひ検討したいとおもいます!願望、教えてくださってとっても嬉しいです。また聞かせてください( ; ; ) (2021年8月19日 6時) (レス) id: 03cd483279 (このIDを非表示/違反報告)
あい - そして、自分の感情をぶつけ過ぎてごめんなさい。今度こそ!陰ながら応援させていただきます。大好きです! (2021年8月19日 5時) (レス) id: 84b5793c7c (このIDを非表示/違反報告)
あい - 後者の気持ちは隠しておきたかったけど、私もkaeさんの言葉が本当に嬉しかった…私は自分の小説があるわけではないので貴女に返せる物が無いです。いつも楽しい時間をありがとうございますね! (2021年8月19日 5時) (レス) id: 84b5793c7c (このIDを非表示/違反報告)
あい - コメント欄に「あまりコメントをいただいた事が無い」とkae様のコメントを見つけました。正直な話、こんな素晴らしい作品を沢山の方に読んでほしい!と思う反面、あぁ人気にならないで寂しい…と思ってもしまいます。完全に私の嫉妬ですね(笑) (2021年8月19日 5時) (レス) id: 84b5793c7c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:kae | 作成日時:2021年8月10日 13時