51*重なる ページ8
.N side
相葉さんの家に入って、その濡れた体を温めるためにまずはシャワールームへと歩く。
「相葉さん。冷えちゃったし、シャワー浴びようか。お風呂もお湯貯めるから、ゆっくりしな？」
こくり、と頷いて、とたとた、と脱衣所に移動する相葉さん。
いつも以上に時間をかけてゆっくりと服を脱いだりしている間に、お湯を溜めておく。
流石に一緒に入る、とまではいかず、相葉さんがお風呂に入るのを見送ったあとはリビング戻って待った。
「……はぁ、」
怒涛の一日を振り返って、思わずため息をつく。
それは、疲れたからとかそういうことではなくて。
初めて、相葉さんを失うかもしれない恐怖を感じたからだ。
以前、あの事故が起きた日と同じ夜に失踪した相葉さんを夜な夜な探したこともあったけど。
相葉さんが好きだと自覚しているからこそ、今回のことは不安をかき立てた。
目が見えないことだけでなく、過去にたくさんの後悔の念を持って生きる相葉さんを支え、そして守ること。
それは、決して簡単なことではないのだと、そんなことを考えさせられる日でもあった。
……俺に、相葉さんを守ることができるのだろうか。
相葉さんの向日葵のような、太陽のような笑顔を守りたい。
その想いは、こんなにも強くあるのに。
自分自身が、物凄く無力に感じてしまう。
もっと。もっと、もっと。
相葉さんが頼れるくらいに明るい光になれたらいいのに。
強く、自分の手を握りしめた。
ガチャ……、
扉の開く音がして、相葉さんがサッパリした姿でリビングに現れた。
「おかえり、相葉さん。ちゃんとあったまった？」
「……うん、」
リビングの入り口で立ちすくんだままの相葉さんの手を握り、そっと、ソファに誘導する。
「何かあったかいもの飲む？…ココアとか」
「ありがとう、お願い、しようかな」
「ちょっと待ってて？」
その手のひらをポンポン、と撫でて、キッチンへと向かった。
「はい。ココア。…ちょっと熱いかもしれないから、気をつけて」
その手にコップを握らせると、相葉さんはゆっくりと口を近づける。
コクリ、とココアを一口含むと、ほぉ、っと息を吐いて。
「美味しい」
そう言って、小さく笑った。
そんな些細なことでも、こんなにも幸せな気持ちになる。
やっぱりこの人が好きだ。
そんな気持ちが、少しずつ膨れ上がっていく。
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作者名：aim | 作成日時：2019年6月16日 15時
