【Fischer's】水魚之交 III【短編集】

シルク：辛い事がある ページ8

特に今日何かあった訳ではない筈だ。ちょっとヘマはしてしまったけど、それが決定打になったとは思わない。では何故こんなにも心が晴れないのか。心做し体も重い気がするし、一人になると悪い事ばかりを考えてしまうのはやはり今が辛いからだろうか。

『…シルク』
「よっ」

夕食を済ませ後は寝るだけだと言う深夜手前の時間に、突然連絡もなく家を訪ねて来たシルク。今日はもう誰とも会いたくなかったのに、何故こうもタイミングが悪いのだろう。それにシルクは勘が鋭過ぎる。私が落ち込んでいる事が分かればすぐに聞かれてしまうだろう。

『なんで来たの?』
「この前動画の企画だっつってAの家に置き忘れたおもちゃあっただろ？それ取りに来たついでに顔見たくなって」
『そう。でもごめん私今日はちょっと』
「AA」

丁重に帰って貰おうとしているのに何故かソファに深く腰掛け私を呼ぶシルクは、自分の太股をぽんぽん叩き私を招いている。あ、きた。と思った。この時点でシルクは私の気持ちに気付いている。きっと聞かれてしまうのだ。私は重い足取りでシルクの横に座ると、外側の肩を持たれ膝枕にしようと体勢を崩させた。

『シルクの足筋肉で硬い。』
「固めの枕好きでしょ」
『誰もそんな事言ってない』
「はいはいよしよし」

シルクの手が私の髪を撫でて耳に掛ける。頬を摩って温度を確かめ、寝かしつけるように頭をぽんぽんされた。

「A可愛いなー」
『急に何』
「お、照れた？」
『照れてないっ、つんつんするな』
「えいえい〜」
『もうちょっと、ふふ、やめてって』

頬や首筋を突く度に擽ったくて思わず笑ってしまうと、シルクも笑顔になり更に悪戯になっていく。一頻りじゃれた後落ち着いたかと思ったら急に頭をぐしゃぐしゃに撫でられた。

「おらおら元気出せよーー！」
『うわぁぁ!』
「お前は頑張り屋さん何だよー！このー！」
『分かった分かった!ごめん、ごめんなさいー!』
「よーーし！仕方ない許してやろう。じゃあ次は飴」
『え？』

シルクなりの飴と鞭らしいが今のが鞭だったのか尋ねる事は出来なかった。見上げるシルクが段々近付いて来て額にリップ音を立ててキスをされると、またにんまりと微笑まれる。

「元気出た？」
『…で、出まくった…』
「はははっ、良かった」

全て見透かされているのに居心地が良いだなんて、おかしな事もある物だ。

END

辛い時・シルク：髪をぐしゃぐしゃにして励ます

　

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