【Fischer's】水魚之交 III【短編集】

モトキ：人生を編み込もう ページ28

もう二年付き合っているモトキさんに、自分は体が弱く薬漬けになっている事を黙っていた。バレぬよう体調の悪い時は予定をドタキャンまでして。

隠すつもりではなかった、でも打ち明けるのも怖くて言えずにいたら長い期間騙すような行為をし続けいた。もうこれ以上モトキさんを縛る行為をするのは辛い。ちゃんと伝えないと

「もう二年かー、あっという間だったね」
『うん』
「A、目閉じて」
『モトキさん』
「とーじーて?」
『……。』
「ふふっ、はい、いいよ開けて」

目を開けた先に置かれていたのは大きめの本。表紙にはアルバムと英語で表記されている。開いてと言われそっと表紙を捲ると、そこには二人で写った写真数枚が差し込まれていた。

「二年記念日って事でアルバム作って来ちゃった」
『…素敵』

素敵だと思ったのは本音。でも、二年も付き合って来て写真の数は二桁もいかない事に切なさもあった。顔色の悪い写真を撮られたくないのもそうだが、写真を撮ればその度にモトキさんの事を好きになってしまうから避けていた。

「気に入ってくれた?」
『ありがとう、モトキさん』
「うん。これからはもっとさ、Aと思い出を作っていきたいから、これは大切にしようよ」
『…モトキさん』
「なに？」

…言いたくない。記念日を律儀に祝って私をまだ好きだと言ってくれるこの人に、別れようだなんて。

でも言わないと、私はこんなに醜いのだと

「っ、A…?」

初めて私から彼の手に手を重ねた。珍しく驚いているのはその行為よりも私の手の温度なのだろう。

『私、病気なの。毎日飲まなきゃいけない薬があって、月に1度検査してて、一晩中寝込んでる時もあるような人で。』
『そんな人とこれからも一緒にいたら、モトキさんのしたい事を殆ど奪ってしまう…だから』
「別れようって?」
『っ…。』

心臓が苦しく脈打つ。モトキさんを見る事が怖くて目を瞑っていたら、突如降って来る接吻

「…知ってたよ。体調の事」
『えっ?』
「全て分かってても俺は、Aの事が好きだよ」
『どう、して? 遊べないデートも出来ない、モトキさんにとってお荷物でしかないんだよ?』
「お荷物何て思った事ない。デートする事だけが恋人じゃない。俺は、どんなAでも、どんな事があっても、そんなAを、愛してます。」

だから、自分を卑下するのをやめて、俺と生きて？

こんなに想われたら、私はきっと貴方からもう、離れる事が出来なくなってしまうのに。

END

　

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