【Fischer's】水魚之交 III【短編集】

ンダホ：この球が当たったら ページ27

成就祈願をしようと思う。バッティングセンターで願掛けなんて何を考えてんだと思われるかも知れないが、これが俺の中で唯一叶うかも知れない方法だからだ。

『ダホちゃん頑張れー！』
「任して！今日は全部当てるから！」

ずっと好きだったAは、野球部のマネをした事があるらしくその頃から野球が好きらしい。だから俺が鈍った体を動かす為にバッティングセンターに行こうとすると必ずついて来てくれ、その度に褒めてくれるから、いつしかその応援と歓声が俺の心を満たしていった。好きになってた。

カキーン

『当たったー！調子いいね！』
「まだ勝負は始まったばっかだから…！」

カキーン

綺麗な音を立てて金属バットに当たるボールがヒットの的に飛んで行き、液晶のピッチャーがボールを構える。

カキーン

『ダホちゃん凄いよ、今の所全打ヒット！』
「まだまだ」

カキーン

いつになく真剣な俺を見て今Aはただ楽しんでいるだけに見えているのだろうか。全打球命中して、且つ最後にホームランの的に当たったら君に告白しようと本気で挑んでいる俺の顔は、後ろからでは見えないけど、伝わってはいないのだろうか。

カキーン

「あと三打…！」

カキーン

「あっぶね…」
『あと二打！』

時が迫っている。今のボールを捉えるのは難しかった、自分でも何故打てたのか分からない程に。最早執念で打っているような状態だ。

まるで世界がスローモーションになったかのように頭の回転が速くなる。視線をホームランの的から後ろの彼女に移し、あと一打で全打ヒットと言う快挙を期待している瞳を見つめ

「A」
『なに？』
「俺ね、次のボールホームランにしたら、Aに伝えたい事があるんだ！」
「絶対に今日言いたいんだ。だから…応援してくれる？」
『うん、勿論！絶対打ってね！待ってるから！』

フェンス越しに笑うAに俺も笑い返して、再び前へ向き直す。フラグも立てた、もう当てないなんて選択肢は残されていない。絶対に当てる。当ててみせる、目指すは

「ホームラン！」

金属バットをホームランの的に掲げ、予告ホームランのポーズを取ると彼女の歓声が上がる。
構える液晶の中のピッチャー、身構える俺、祈るA。

「絶対に当てる！！」

重い機械のモーター音がして真っ直ぐに排出された野球ボールは、ストレートにこちらに向かって来る。そして

カキーン

と。確実に捉えたボールが向かう先はヒットかホームランか、それとも。

END

　

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