【Fischer's】水魚之交 III【短編集】

ダーマ：穢れなき緊迫 ページ19

「一日だけめちゃくちゃ素直なダーマとかさ、俺絶対面白いと思うんだけど！」

メンバーと何気ない昼食中にそんな話題が上がったらしく、突然呼ばれた私はシルクの家で恋人より悪友に近いダーマを待っている。

待つ事十分程度でインターホンが鳴り踊りを挟んでから家に上がったダーマは、特に普段と変わっていないように見受けられたが、横にいたシルクが一度手を叩き何かを開始したような合図を送り、恐らくそれがダーマがめちゃくちゃ素直になる為の切り替えだったのだろうと言うのは、開始数分で分かった。

「よお、A何か飲む？ 買って来たけど」
『は、はい…どうも』

他人ましてや私に何かを買って来てくれた事が一度もなかったのに今日になって冷たい缶コーヒーを手渡して来たこのダーマ、珍しく自分に不利な企画にノリノリなように感じる。なんか怖い

「シルクちょっと、席外してくんね？」
『え、何なんでどうして嫌だ怖い待ってちょ』
「あー了解、じゃあコンビニ行ってくるわ」
『えっめっちゃすぐ受け入れるし…なんで、怖い』

シルクが出て行ってしまい益々何をしようとしているのか分からない。難なら素直になっているダーマと1対1になる事自体危険なのにそれだけでは収まらず、録画カメラの前に立つと録画ボタンを止めてしまった。

カメラがなくなった今二人きりの状況は尚更悪い方向へ進んでしまっているのに、当のダーマは何食わぬ顔でまた私の横に座った。

「A」
『だ、ダーマさん、どうしました？』
「キスしていい？」
『…は？！』

全く脈略もない所から、普段の悪友を消したダーマは恋人としてのダーマに変わり、且つ素直になっている事でふざけもしないしつっけんどんでもないし、ツンデレのデレだけを絞り出したような人間が今ここに存在している事がにわかに信じ難い。

「やべえな。キスしたらもっと欲しくなった」
『はぁ？！』

違う、これはダーマの姿を借りた全くの別人だ。現実逃避に他ならない思考に持ち替えた刹那、眼鏡を外し更にこちらへ擦り寄り押し倒すように体重を掛けてくると力適わず上から見下ろされてしまう。

「ずっとお前とこう言う事してみたかった。」

素直な事は良い事だし間違った事などでは決してないのだが、どうしても真向から愛を囁いてくれるダーマはダーマであれどダーマではなくて。

『で、でも動画は…』
「お蔵入りだろ。」

眼鏡を外した彼が顔の距離を詰めた事で、咄嗟にシルクへの謝罪を考えた。

END

　

ぺけたん：寂しい背中、優しい背中。→←ザカオ：双方共に意地悪だ

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