13 [知らない恐怖] ページ13
「守護のピアスについてだが、明日の朝ここを出発する。」
団長、という男は私達とある程度距離の空いた所に立ち、両手をズボンのポケットに入れていた。
こいつ、やばい。
シャルナークの時とは感じが違う。直感で逃げた方がいいと感じた。
「オッケー。まぁ、飛行船でもここから1週間くらいかかるしね。」
「ああ。おそらくファシオ家は警備が堅い。正面から中に侵入するより、遣いとして紛れた方が都合がいい。」
逃げた方がいい…？
あぁ、こんなことならシャルナークを信頼しないと良…そうか。私はシャルナークを信頼してしまっていたんだ。
私はこんな短期間で人に甘えるような人間になったんだ。
「なるほどね。結構大変な作業になりそうだね。」
「その方がやりがいがあるだろ？」
2人の声が聞こえなくなる。シャルナークと団長という人は笑った様だった。
逃げたい。黒い霧に圧迫されているような、そんな感覚でここにいることが苦しくてたまらない。
ふとシャルナークが振り返って真後ろにいた私を見下ろした。
「A？怯えてる？顔色悪いけど、大丈夫か？」
『別に、何とも…。』
今の私が言える精一杯の嘘。察して…！！
シャルナークはキョトンとした顔つきで私を見ていた。
「ふーん。あ、彼女が例の人だよ。」
「なるほどな。」
黒い男はこちらへ近づいてきた。この男に関わると何かを失う、そんな気がした。
足音が近づいてくる。気配が近づいてくる。
「オレはクロロ＝ルシルフル。明日は一応お前を連れていくがお前の存在がオレの…幻影旅団の邪魔立てをした場合、もしくは足でまといと感じた場合、即排除する。」
男は目の前に立っていた。外にはねた黒い髪、大きくて暗く深い瞳。ピアスと額の十字のマーク。
…怖い。
『わかりました…』
彼、クロロの瞳に怯えた自分が映っている。捕らわれたように怯えた自分が。
「団長、それはちょっと言い過ぎ。」
「蜘蛛への忠誠だ。この女が蜘蛛を崩壊させてしまう恐れがあるのであれば、オレは今すぐにコイツを排除する。そんなことが出来るとも考えられないが。」
男は目を伏せて口角を上げていた。私は彼らに、彼に従って動かなければ殺される、という事なのだろう。
そもそも私は強盗も戦闘も経験ないのに…。
冷えた汗がたらりと流れた。
…ここで実際には10秒と短い、私にとって地獄のように長い沈黙が流れた。
沈黙を男が遮る。
「お前は名前ひとつ名乗れないのか？」
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作者名：ry | 作成日時：2019年11月26日 22時
