私と彼 3【宮侑】

25 言い訳の講義 ページ43

その後というもの、

目のぼやけは徐々に酷くなっていった。






｢あっ、ごめんなさい｣

｢おお、すまんすまん｣






眼鏡をかけていても、急激に

ぽやけてしまうことがある。

そのため、大学のなかでも誰かとぶつかったり

壁に頭をぶつけることが多くなった。






｢(なんかぶつかりすぎて、あたり屋みたいになってる気がする)｣






座れる場所を見つけて腰を下ろす。

ほんの数分間歩いていたはずだが、

気持ち的には1時間ぐらい歩いた気分だ。






｢(眼鏡とったらもっと見えへんしなぁ)｣






1度眼鏡を外してみると、

ここがどこなのかも分からないぐらい歪んだ。

急激なぼやけは、ほんの一瞬だけなのだが

たまに数分間見えない時があって困る。






｢(ほんまに損傷が大きいんやな)｣

｢(ま、トラックやし当たり前か)｣






病院で目を見てもらった時に、

角膜の損傷が大きいと言われた。

そのため、いつ目が見えなくなってもおかしくないとも言われてしまった。






｢(お母さんは、いつ帰ってきてもええよって言ってくれたし)｣






角膜のことは両親にしか話していない。

侑はもちろん、親友のゆっちゃんや

凛子にも話せていない。

自分が可哀想だと同情を買うのもごめんだ。






｢(今のうちに出来ることしなきゃ)｣






眼鏡をとって眼鏡拭きで拭いていると、

誰かが目の前に立っている気配がした。

眼鏡をかけると、大きな影が上から見つめていた。






｢暇そうやね、侑｣

｢暇を持て余してるわ｣






｢よっこいしょ｣とおじいさんみたいなことを

言って私の横に座った。

長い脚を組んで、膝の上に肘をおいて

頬杖をついている。






｢ええの、私のとこ来て｣

｢誰もアカンなんて言うてへんやん｣

｢ほら、お友だちとか｣

｢大丈夫やって心配せんでも｣






ここに来てくれたことは嬉しいが、

正直辛いものがある。

あまり考えないようにしていたが、

侑の顔を見ると、見えなくなってしまうというのを

受け止められなくなってしまう。






｢ねえ｣

｢ん？｣

｢私のどこが好き？｣






咄嗟に聞いてしまったが、

それにしてもキモすぎる。

｢はっ｣としたときには、もう遅かった。

当の侑はというと、目を丸く開いている。






｢ごごごめん、今のなし｣

｢あ、A｣

｢講義あるから！｣






恥ずかしくなった私は、

早足であるはずもない｢講義｣に向かった。

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