【募集企画】IDOL in Grand Cross【本編～日常編】 (ページ5)

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チャンス/ユイ・クロードページ5

―――お前は、医療者になりなさい…。

月に１回。殆ど家に帰らず、祖父母の元にユイを預けたままの両親と３人が顔を合わせ、外食する日があった。そもそもに、医師として共働きを行う両親の予定が合わず、あの夫婦もどこで顔を合わせているのかと不安にもなる。

中等教育が始まった頃だったろうか…祖父のオーケストラでヴァイオリンを披露したと近況を語ったユイに、父は視線を合わせることなく言い放った。

―――分かりました。医者を目指します。

オーケストラが楽しかったとか…自分が作曲した曲が披露されただとか…１か月分の言いたいことは沢山あったはずなのに、父の前で“音楽”に対してそれ以上を口にすることが出来なくなった。

両親に、認めてほしい…
愛してほしい……

―――僕を…見て―――

勉強は嫌いではなかった。
100点を取ると、学年で一番を取ると、寡黙な父の口元が綻び『お前は自慢の息子だ』と頭を撫でてくれる。全国模試で一番を取ると、母は満面の笑顔で抱きしめてくれた。だから、勉強をすることは楽しかった。

だけど、同じくらい“音楽”も楽しくて…

預けられた祖父母は音楽家で、家にはヴァイオリンやピアノ、本格的な音響設備も防音室も整っている。祖父母の奏でるメロディに合わせ歌を歌えば心が躍り、ユイもまた自然と楽器を手にするようになっていた。

心を揺さぶる音が好き―――音楽が、大好きだ。

『僕は、アイドルとして歌を歌う。医師にもなってみせる』

初めて父に反抗した時、父は大きく目を見開いてユイを見た。
それまで、視線を合わせようなど、しなかったくせに…

『臨床実習は？海外留学は？論文研究は？最低６年の医学の勉強は、お前が思っているほど甘くない。医師に課せられた責任と重圧は、二足の草鞋を履けるほど軽いものではない。大人を舐めるな―――』

父の瞳は、怒りと憂いと哀しみに満ちて、それ以上を口にせず席を立った。
残された母から父の真意を聞くまでは、確かにユイは、世界を甘く見ていたのかもしれない。

―――この世で一番大切なユイの傍にいてあげられないくらい
　私達は世界に…この仕事に、大きな責任を背負っているの。

『一番大切？―――嘘だ。僕よりも、仕事を大事にしたくせに。二人に認めてもらいたくて、必死で勉強しているのに…。』