グランド・フィナーレ〈赤〉 (ページ28)

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止まった時計ページ28

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彼女が、頼りない足取りで、
ゆっくりとベッドへ近づいて行く。

僕は入口に立ち尽くしたままだった。

「夢やないんやね、」

ぽつりと、彼女が呟いた。

何に対して言ったのか、考えても分からない。

流星が、もう三年間も眠り続けていることに対してだろうか。

それとも僕達がこんな形で、
今この場に在ることに対してだろうか。

失った物に対してだろうか。

彼女に触れられなかった頃よりも、
想いを伝えた今の方が、
彼女のことが分からなくなってしまった。

「流星。私な、話したいこと沢山あるよ」

僕も、そっとベッドへ近づいて行く。

少しでも足音を立てれば、
流星の隣で紡がれ続ける彼女の詞も、彼女自身も、
崩れ落ちて、消えてしまいそうだった。

近くで流星の顔を見ていると、
昔と何も変わっていなくて、今にも目を覚まして、
何時ものように柔らかく微笑むのではないかと思ってしまう。

あの頃のまま、時が止まっているように見えた。

「流星、」

久しぶりに口にしたその音に、
胸がきゅっと苦しくなる。

あの夜や、海や。

何気ない会話、残る傷。

全てが心の中で大きく蠢いたように。

その先の言葉なんて、僕には紡げない。

僕はまだ子供のままで。

あの頃のままだった。

本当に時が止まっているのは、
きっと僕だ。

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