アルコールと夜 ページ10
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良い機会なのかもしれない。
このまま、無理矢理でもAと距離が離れたら、
僕たちはそれで、いずれは幸せになれるだろうか。
日々蓄積されてきた不安と、体を巡るアルコールが、
僕の判断能力を低下させていく。
さり気なく太腿に載せられた手には、
嬉しさも、不快感も何も感じなくて。
だから、これは神様がくれた良い機会なのかもしれないって。
払い除けなかったんだ。
今夜、このまま家に帰らなければ、
Aは怒るだろうか。
軽蔑するだろうか。
そうしたら、Aには、
もう触れられなくなって、兄妹に戻って。
Aはまた僕の代わりになる人を見つけて、
それなりに幸せになって。
僕は、何年もそうしてきたように、
兄という安全地帯からそれを眺めて、
自分の想いに蓋をしつつも、Aの幸せに幸せを感じて。
良いんじゃないか。
それはそれで。
暗闇の中で手探りで歩く今よりはよほど。
「抜け出そうか」
俺のそんな稚拙な口説き文句に頷く目の前の女は、
もはや僕の視界には入っていなかった。
高校の同窓会。
参加したのは、気まぐれだった。
Aがたまには友人との時間も大切にしなよ、というから、参加した。
参加してみると、まあ確かに高校時代の同級生が変貌してたり、
逆に笑ってしまうくらい変わっていなかったりで、
それなりに楽しかった。
二次会のカラオケボックスで、
流行りの歌が、原型を留めずに僕の耳に届いてくるのも気にならないくらい、僕は酔っていた。
普段飲み会などはあまり行かないし、家でも殆ど呑まないから、
久しぶりに大人数の場でお酒を呑んで、
ペースを間違えてしまったんだと思う。
「重岡くん、大丈夫？」
隣に座る、高校時代に何度か話しただけの女子が話しかけてきたのは、僕が二度目のトイレから戻った後だった。
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作者名：みなみ | 作成日時：2023年6月20日 16時
