代償 ページ9
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送ると言ってくれた淳太に、一人で色々考えたいからと断って、
すっかり暗くなった夜の街を、一人歩く。
星は小さく光っていて、
もう夏なのに、風はどこか冷たさを含んでいた。
淳太の言葉一つ一つが、胸に深く刻まれている。
本当に良い友人を持ったと思う。
二人きり、閉じ込められて、
息も出来なくなってしまいそうになる世界に、
淳太は自分の身を省みず飛び込んで手を差し伸べてくれた。
淳太がいる、というだけで、僕の心は何倍も軽くなる。
それと同時に、僕自身も気付いていて、
それでも目を背けていたことをしっかり突きつけてくれるのも、
強くて真っ直ぐな淳太らしい優しさだと思った。
淳太は何も間違っていない。
だからこそ、どうしていいのか分からない。
今のままだと、この生活がいつか崩れていくのは、
目に見えている。
僕とAの生活は、以前のような穏やかさが消えていき、
触れ合っても触れ合っても満たされない何かから逃げるように、
怯えながら肌を重ねて。
好きと、お互い口にすることも怖くて、
でも相手の言葉がないと不安で。
近い距離で寄り添っている代わりに、
温かい小さな幸せを失っていっている気がする。
声を上げて笑ったり、くだらない会話をしたり、
最後にそんなことをしたのはいつだっけ。
大きな望みを叶えた代償は大きかった。
今の僕らはあまりに不安定で。
触れられなくても、
Aが笑っていて、僕もそれなりに笑えて、
二人ささやかな幸せを噛み締めながら暮らしていた前の方が、
輝いて見えてしまうのはどうしてなんだろう。
結局、僕らにゴールは無い。
無い物ねだりをしたって意味が無い。
分かってるってば。
玄関を開けると、
「帰ってくるの遅い、」
そう駆け寄って僕に抱き着くAの温もりがあって。
現実は見えきっていても、
僕に捨てる勇気は今のところ無いな、と諦めて、
強く抱き締め返した。
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作者名：みなみ | 作成日時：2023年6月20日 16時
