グランド・フィナーレ〈赤〉第二章 (ページ34)

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よろよろとリビングに戻る。

Aがよく被っていた帽子も、携帯も、コップも、箸も、
歯ブラシも、靴下も。

全部全部この部屋の中にあるのに、Aだけが。

あの白いワンピースを着て、僕に微笑みかけてくれたAだけが、
何処にもいない。

Aの残した置き書きが、床に落ちている。

もう一度手に取って読み直しても、涙で滲む目を擦っても、
その文字は変わらないし、消えない。

床に蹲って、声が枯れるまでその名前を呼んでも、
彼女が、ん？って優しく返事をしてくれる幻聴だけが聞こえて、
いつまで経っても、僕の体には何も触れない。

どうして。

どうして。

こんな最悪な結末を迎えるなら、
あの日、キスなんてしなければ。

Aと一緒に暮らさなければ。

Aへの恋心を無視したままにしていれば。

そうすれば、僕は、Aは、今、笑えていた？

A。A。

握り締めた拳は、爪が食い込んで、赤く血が滲んで、
噛み締めた唇は、今にも千切れてしまいそうなのに。

痛みは何も感じなくて、ただただ胸が苦しくて、
張り裂けそうなんだ。

震える指で携帯を開いて、
着信履歴の二番目にあるその名前に触れても、
部屋の中にAの携帯の音が鳴り響くだけで、
いつまで経っても、繋がることは無かった。

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