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｢ははっ、何やねんな｣
揶揄いながらも、僕はそっとAを抱き締めた。
Aは、僕の背中に細い腕を回して、
僕ですら少し苦しいと感じるくらい、
精一杯力を込めて抱き返してくる。
僕は応えるように、腕に力を込めて、
右手でAの頭を撫でた。
さらさらの髪の毛が、僕の指を掠めていく。
Aが少しだけ体を離して、
｢キス、して、｣
恥ずかしそうに小さく呟いた。
愛おしくて、愛おしくて。
僕は、優しく、そっと唇を合わせた。
普段はこんなことを言わないA。
今日は違う。
僕のせい、やんな。
昨日は不安にさせてごめんな。
帰ってきたら、絶対、Aの不安、ちゃんと拭うから。
僕も背負うから。
心の中で、そう唱えた。
ちらりと時計に目をやると、
いつも家を出る時間を少し過ぎていて、僕は慌てて体を離した。
｢あ、ごめん、もう行かな｣
｢うん｣
｢行ってきます｣
｢行ってらっしゃい｣
僕がこの時、心の中で唱えた言葉を口に出していたら、
未来は何か変わっていたんだろうか。
いや、ずっと勘違いをして、
間違い続けていたんだから、変わらないか。
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作者名：みなみ | 作成日時：2023年6月20日 16時
