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｢彼奴と、こうやって毎日のように会ってたんやろっ、｣
｢それは違う！｣
｢なら、何処出掛けてたん…｣
｢…それはっ…｣
｢言えへんねやろっ、｣
｢でもちゃうのっ、
私はもうほんまに望とはっ、｢もうええって…｣
｢何で…｣
｢Aが、分からへんねんっ…｣
玄関の床に置かれたスーパーの袋から、
オレンジが一個、転がり出ている。
夏なのに、ひぐらしの声が聞こえているのに、
どうしてこんなに寒いんだろう。
沈黙を、Aの震えた小さな声が揺らした。
｢どうしたら…どうしたら私たちは幸せになれるんやろ｣
｢は、｣
｢どうやったら、その不安を取り除けるん？
どうやったら、私と一緒に居ると心から幸せって…笑ってくれるんっ？
私の想いは何も届いてなかったんかな…
足りひんかったんかなっ、｣
違う、違う。
そう言いたいのに、首を振るだけで声が出ない。
毎日のキス。
カーテンを取っ払って、布団をくっつけて眠る夜。
きちんとお互いに言葉にした想い。
いつでも温かいご飯。
幸せを感じる要素は、
日常の中の何処にだって転がっていたのに。
僕は、どうして結局、怯えたままなんだ。
たった一度、Aが違う男といる所を見るだけで、
こんなに壊れてしまうんだ。
手を繋いでいたわけでもない。
ただ元彼と並んで話していただけ。
そう言われればそうなのに。
それでも、
僕は今、紛れもなく絶望している。
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作者名：みなみ | 作成日時：2023年6月20日 16時
