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取引先での用事を終わらせて外に出ると、もうお昼時だった。
昼の店でも探そうと、会社の最寄り駅まで電車に揺られる。
いつもの蕎麦屋でええかな、暑いしな。
そんなことを考えながら改札を抜けると、
地下鉄の改札の辺りにAの姿を見かけた。
Aは慣れた様子で改札を抜けると、そのまま行ってしまった。
真夏なのに、冷たい汗が掌に滲む。
最近感じていた違和感との辻褄が合った。
仕事を終えて家に帰ると、
Aがよく被る帽子の位置が変わっていたり、
一日家に居たと話しているはずなのに、
洗濯物に私服が入っていたり。
気を付けて見ないと分からない程度だけれど、
夏休みに入ってから、Aは何処かに出掛けているのか、
と思うことは、一度や二度では無かった。
買い物に行っただけや、と考えたりもしたけれど、
その違和感を感じる頻度は上がる一方だった。
買い物なら家から五分の所にスーパーがあるし、
ショッピングが出来る店があるのは地下鉄じゃない、
違う路線なのに。
Aは地下鉄に乗って、何処へ行っているんだろう。
仕事を終えて、家までの帰路を歩きながら、
僕はこれについて言及すべきかどうかずっと悩んでいた。
「ただいま」
「おかえり！今日ね、唐揚げ作ったよ！」
何事も無かったかのように部屋着を着て、
笑顔で出迎えてくれるAの顔を見て、
僕の勇気は崩れていき、結局聞けない。
でも、後になってから思ったんだ。
この時聞けなかったのは、
聞いてしまったら、何かが崩れてしまうって。
何となく察していたからなんだって。
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作者名：みなみ | 作成日時：2023年6月20日 16時
