グランド・フィナーレ〈赤〉第二章 (ページ11)

今日:25 hit、昨日:34 hit、合計:13,280 hit

・ページ11

·

「ああ、大丈夫」

「珍しいね、重岡くんが二次会来るなんて」

「そうかな」

「うん。そもそもクラス会も来うへん時の方多かったし」

「まあな」

彼女はやけに僕の目をじっと見つめながら話す。

「嬉しいな、重岡くんとこうやって呑めるの」

「え？」

曲が変わって、やけに懐かしいメロディーを、
酔っ払った男たちが肩を組んで叫ぶかのように歌っている。

だから彼女はそっと僕の耳に顔を寄せて呟いた。

「私、高校の時ずっと重岡くんのこと好きやってんで？」

好きが、違う国の言葉みたいに、
僕の耳に届いても何も意味を持たない。

心が動かない。

同じ好きなのに、どうしてAはこんなに特別なんだろう。

これまで何度も考えてきたこと。

他の人を見たら、少しは楽になれるのだろうか。

このまま、Aと距離を取ったら、
幸せになれるんだろうか。

太腿に載せられた手。

僕は払い除けなかった。

もう、全部このまま、失ってしまえば。

アルコールで鈍った頭。

遠くでAが僕の名前を呼ぶ声がした気がした。

「抜け出そうか」

僕はいつだって、Aと、そして何より、
自分のことしか考えていない。

その女の手を取って、荷物を乱雑に掴んで。

夜の街に逃げ出した。

·