33 想いだけでは ページ37
無事 病院が終わったこと。診察の結果。すべてを報告したうえで篠原さんにはひとりで帰りたいと告げた。しばらく休むことを伝えた篠原さんはなにか言いたげな様子だったけど電話越しに「何かあったら連絡してね」と言ってくれた。
帰りはバスで帰ることにした。
帰宅ラッシュより早かったからか、バスは空いていてこの時間帯にバスに乗るのは大体小学生か主婦。バスの後ろに座ろうとすると、ふと横目に優先席に座るお腹の大きな妊婦さんをとらえた。
どくりと血流が巡った気がした。
病院帰りだからか、はたまた自分が妊娠をしているからか、街中でやけに妊婦姿の人が目に止まる。
ブロロロローーーーーー・・・
バスが走り出し、ゆらゆらと揺られる。騒がしい車内の音をかき消すようにイヤホンをつけた。今はいつもの軽快な音楽の気分じゃない。
耳元から聞こえる、悲しげな音。
まるで世界中で1番不幸なのは自分だと、そう思ってしまいそうなほど押しつぶされそうだった。そんなはずはないのに、でも今は、そう思えずにはいられない。
ーーーーーーーーーーーーーー
「・・・ただいま」
パチリと、玄関の電気をつけた。 なんとか家路に着いた。イヤホンを仕舞おうとしてカバンからケースを取り出そうと手を引き抜いた。ぱさっと軽い音をたてぐしゃぐしゃになった1つの封筒が落ちた。
初めてみる、エコーの写真。
まだほんの小さな欠片。でもこの小さな欠片がまぎれもない、わたしと翔平の、赤ちゃん。指でたしかめるようになぞる。エコー写真が、涙で濡れた。
ずっと考えないようにしてた。
夢なんだと、ウソだと言って欲しいと思っていた。女医さんの淡々とした言葉がやけに突き刺さった。わかってる。わたしのような人間がたくさんいる、だからあぁ言ったのだと。
妊娠が分かって真っ先に思ったのは中絶を選択したくない。ほんとうは産みたい。でもそう簡単に喜べなかった。
わたしの彼は、大谷翔平だから。
翔平がどんな反応するか分からない。喜んでくれるかもしれないし、違うかもしれない。あの人は今 世界で活躍してる。大事な時期だ。日本だけじゃない、世界のファンの思いを一身に背負ってる。
だからこそ、想いだけじゃダメなんだ。
その日、翔平から何度も連絡がきたがわたしは翔平のメッセージも着信も、応えることはしなかった。
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黄色ジャス民(プロフ) - 本当に最高なお話です。めっちゃ大好きです。まだお話は続くと思うけど出来ることなら続編も読みたいです。 (12月21日 16時) (レス) @page47 id: 8ff4fc4814 (このIDを非表示/違反報告)
黄色ジャス民(プロフ) - どうか別れないでハッピーエンドでお話が終わりますように。 (12月20日 22時) (レス) id: 8ff4fc4814 (このIDを非表示/違反報告)
arulongchuan(プロフ) - 最高です…! (12月16日 18時) (レス) id: 1fa20d15c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:gpneibybz | 作成日時:2023年12月15日 13時