17、炭素 ページ17
「白峯ちゃんてさ、ああいうの興味ないの?」
神永が指を指す方向には、宝石店のショーウィンドウ。
白峯がかぶりを振る。
「どうして?」
「だって、ただの石じゃない」
彼女の発言に、甘利、実井、波多野が吹き出し、田崎、小田切、福本が苦笑いした。
「夢がないなあ、」
神永でさえ、苦笑いだ。
女なんて、いつも綺麗な服や装飾品を底無しに求める。八人が今まで関係を持った女も例に漏れずそうだった。
「黒鉛もダイヤモンドも所詮、元は同じ炭素でしょ。それに、いくら高い宝石をプレゼントしてくれたからって、すぐに浮気されちゃたまったもんじゃないわ」
八人は笑った。冷笑ではなく、彼女の冷めた口調と価値観が珍しくてつい、笑ってしまったのだ。
彼女は首を傾げる。
「私は、その・・・好きな人から貰ったものは何でも嬉しいと思う。高価なものじゃなくても、その人がくれたものなら・・・河原の石でも大切にしてしまうと思う」
白峯は不思議そうな顔をして、八人を見渡した。
全員、神妙な顔をしていた。
河原の石でも大切にする。何て言う女に初めて会った。口だけならそんなこといくらでも言えるだろう。でも彼女は、白峯は何故か嘘を言っていない様に思えた。
否、思いたい、というのが本音か。
「とらわれるな」結城中佐の言ったことを白峯含む全員が理解しているはずだ。でも、その時は八人全員が彼女の言ったことを、信じたいと思ってしまった。
男しかいないD機関の中で、唯一の女。さぞかし生きづらいだろう。得体の知れない雰囲気を孕んだ彼女の「何か」が見えた気がして、彼等は複雑な心境になった。
「やっぱり、白峯ちゃんてさ・・・」
神永が何かを言おうとしてやめた。
白峯が振り返る。
「なに? 」
「いいや、何でも」
それから神永は、
「それよりさ、これからどこ行く? お酒飲める場所が良い? 」
と、声のトーンを変えて言った。
神永の言わんとしていることは、白峯以外皆分かっていた。
「言わぬが花、ねえ・・・」
甘利が呟いた言葉が、夜の街の喧騒に溶けて消えた。
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枇杷島(プロフ) - 凄く嬉しいです。楽しい作品に出来ているようで安心しました。お褒めのお言葉、ありがとうございます! (2016年9月29日 23時) (レス) id: 841cd86dfc (このIDを非表示/違反報告)
野崎 - 何度見ても面白いし表現が色っぽくてすごいなあと思いながら見てます!更新楽しみにして待ってます。頑張ってください! (2016年9月29日 23時) (レス) id: a382114b2a (このIDを非表示/違反報告)
枇杷島(プロフ) - レンさん» ありがとうございます! 私も誰落ちとかは兎も角、死人は出したくないなって。ご意見、ありがとうございました。 (2016年8月23日 0時) (レス) id: 841cd86dfc (このIDを非表示/違反報告)
レン - 三好オチかどうかは別として生きててほしいです。 (2016年8月23日 0時) (レス) id: 6d1b932390 (このIDを非表示/違反報告)
枇杷島(プロフ) - ありがとうございます!私も悲しい話は苦手なので、生きてる方が良いなと考えてます。 (2016年8月20日 10時) (レス) id: 841cd86dfc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:枇杷島 | 作成日時:2016年8月16日 0時